雑音で話す道具たち

祖父の古いラジオを修理すると、放送のない周波数で、近くの道具の声が聞こえるようになった。

ただし一度に話せるのは、いちばん長く使われた物だけだった。

孫は祖父の工房へラジオを置いた。

最初に声を出したのは、木の椅子だった。

「右脚、冬に短い」

次はやかん。

「火、強すぎる」

鉛筆削り。

「最後の子、左利き」

祖父について聞きたいのに、道具は自分のことしか話さない。

祖父は寡黙で、孫が都会へ行くときも、

「そうか」

としか言わなかった。

亡くなる前に何を思っていたか、誰も知らない。

ラジオを工房の奥へ持っていく。

錆びた作業台が話した。

「封筒、毎月ここ。手、止まる」

孫が送った手紙を、祖父は作業台で読んでいたらしい。

返事は来なかったが、手を止めていた。

「嬉しかった?」

尋ねても、

「手、止まる」

としか返らない。

引き出しから、孫の手紙が束で出てきた。

角が擦れ、何度も開いた跡がある。

その中に、一通だけ未開封の封筒があった。

孫が最後に送った個展案内だった。

祖父は読まずに亡くなった。

孫は胸が痛んだ。

最後まで届かなかったと思った。

そのとき、ラジオから別の声がした。

長く使われた古い眼鏡だった。

「封筒、見えない。指、なぞる。机、二回」

祖父は目が悪化し、文字を読めなかった。

それでも封筒の名前を指でなぞり、作業台を二度叩いた。

その仕草の意味は、道具には分からない。

孫には分かった。

祖父が了承するときの癖だった。

ラジオは答えをくれなかった。

「見に行きたかった」も「誇らしかった」も言わない。

物は触れられた圧力や置かれた時間しか知らない。

孫は未開封の案内を自分で開いた。

祖父の席へ置き、個展の写真を一枚ずつ説明した。

誰も聞いていない工房で、最後まで話した。

その後、工房を地域の工作室として開いた。

子どもたちが道具を使うと、ラジオの声は少しずつ変わった。

「右脚、今は平気」

「火、弱い」

「左利き、また来た」

祖父の道具が、新しい手のことを覚え始めた。

心の中身は翻訳できない。

それでも何度開かれた封筒や、止まった手の時間から、届いていた温度を推し量ることはできた。