雨を預かる傘

未来用品店の傘は、開いている間、半径三メートルの雨を完全に止めた。

ただし止めた雨は傘の中へたまり、閉じた瞬間、一度に降る。

父は娘の運動会で使った。

空だけが暗く、家族の周りは乾いている。

徒競走も弁当も、完璧な天気で終えた。

帰宅して玄関で傘を閉じると、運動場一日分の雨が廊下へ落ちた。

靴箱は水浸しになり、家族は夜まで掃除した。

それでも便利だった。

旅行。

花火大会。

家族写真。

父は、予定した日に雨が降ることを許せなかった。

妻が「普通の傘でいい」と言っても、

「せっかくの日を台無しにしたくない」

と答えた。

母の葬儀の日も大雨だった。

父は未来の傘を開いた。

墓地までの道で、参列者は一滴も濡れなかった。

母の写真も、花も、きれいなままだった。

娘は泣かなかった。

父も泣かなかった。

雨まで止めれば、何も崩れず式を終えられると思った。

帰宅し、父は傘を閉じられなくなった。

葬儀の日の雨が全部たまっている。

家の中で閉じれば大変なことになる。

外へ出ても、近所を水浸しにする。

父は開いた傘を持ったまま、玄関で立ち尽くした。

娘が言った。

「濡れていいよ」

二人で庭へ出た。

傘を閉じる。

空ではなく、傘の内側から大雨が落ちた。

父も娘も一瞬で濡れた。

花壇の土が跳ね、靴に泥が入り、母の葬儀でもらった紙袋が破れた。

娘が泣き始めた。

父も泣いた。

雨と涙の区別がつかず、どちらも止めなくてよかった。

その後、傘は普通の雨の日にだけ使った。

少し歩いたら、排水溝の上で閉じる。

ため込みすぎないようにする。

娘も、学校で嫌なことがあると、その日のうちに少し話した。

父も、寂しい夜には妻へ寂しいと言った。

数年後、娘の結婚式の日に小雨が降った。

父は未来の傘を持っていたが、開かなかった。

新郎新婦は透明な傘を差し、写真には細い雨が写った。

「台無し?」

娘が尋ねた。

父は首を振った。

「今日の雨だから、残しておこう」

未来の傘は、家の物置にある。

願えば大切な日を乾いたまま守れる。

けれど悲しみも不都合も、閉じる場所を先送りするほど重くなる。

父はもう、降るべき日に少し濡れることを恐れなかった。