雪原に残る焼き跡

氷術師リュシアは、炎を扱えないという理由で厨房魔導隊を外された。

辺境の雪原へ着いた初日、彼女は笑った。土地の中央には石のパン窯があったが、壁が凍りつき、薪を燃やしても熱を全部奪われてしまう。

直す場所は一つ。窯の外側へ断熱層を巻くことにした。

リュシアは納屋の古い羊毛をほぐし、粘土へ混ぜた。冷たい泥を窯の胴へ掌で塗り重ねる。表面を厚くしすぎれば割れ、薄ければ熱が逃げる。彼女は氷術で壁の温度を読み、冷えが強い場所へだけ泥を足した。

雪兎人の猟師ボロが、腕を組んで見ていた。

「氷の魔法で窯を直すのか」

「冷たい場所が分かるなら、温める場所も分かる」

外気が触れる場所には細かな霜がつき、熱を抱えた場所だけが濃い土色になった。リュシアには、その模様が窯自身の地図のように見えた。

塗り終えた層を弱火で乾かす。湯気が白く立ち、羊毛の匂いと土の匂いが雪の空気へ溶けた。窯の外側へ触れても、前ほど熱くない。熱が内側に残っている証拠だ。

リュシアは茹でた芋を粉へ練り込み、平たい生地を四枚入れた。炎は小さいままだったが、石壁がじわじわ赤くなり、温度が下がらない。

雪の上で待つ二人の耳へ、窯の中から薄い皮が弾ける音が届いた。

扉を開けると、白い湯気が雪煙のように広がった。芋パンはふっくら膨らみ、底まで淡い狐色だ。ボロが割った一枚から、ほくほくした甘い香りが上がる。

夕暮れ前、吹雪の向こうから鈴が一つ聞こえた。道を外れた母子の橇だった。目印にした煙だけを頼りに、ここまで来たという。

リュシアは二人を窯のそばへ座らせ、芋パンを半分ずつ渡した。外壁は熱くなりすぎず、背を預ければじんわり温かい。子どもは凍えた指でパンを包み、白い湯気へ鼻を寄せた。

「氷の魔法使いなのに、あったかいね」

王都では一度ももらえなかった評価だった。

ボロが残りの一枚を割りながら言う。

「この煙なら、雪の日の道標になる」

リュシアは断熱層についた小さなひびを一つ見つけたが、今日は触らなかった。今日の仕事は終わっている。

雪原に残った最初の焼き跡は小さかった。それでも、自分たちで暖まれ、迷った誰かも呼び寄せられる場所が、確かにそこにできていた。