雪道を渡る湯車
山裾の共同浴場は完成していたのに、北外れの老人たちは一度も入れなかった。
雪道を歩けば往復二時間。転べば春まで見つからない。村長ヨエルは「利用者が少ない」と浴場閉鎖を考えたが、北外れに住む老婆の家で、湯気の出ない洗面器を見て考え直した。
彼が提案したのは、新しい浴場ではなく一台の屋根付き橇だった。
送迎費を全世帯から同額で取る案には反対が出た。浴場の隣に住む者は橇を使わない。そこでヨエルは、橇の利用者が往復銅貨一枚、ただし六十五歳以上と怪我人は無料と決めた。無料分は、冬市の露店料から一割だけ回す。冬市の客は浴場を使い、商人は清潔な休憩所で売上が増える。負担と利益の道筋を一本にした。
「露店料が何に消えるか、今まで誰も知らなかった」と菓子屋が言った。
ヨエルは浴場前に大きな図を貼った。露店料十枚のうち一枚が、橇の縄、馬の飼料、御者の賃金になる。走行回数と乗った人数も毎日書く。
最初の御者は抽選で雇う予定だった。だが図を見た若い馬飼いが手を挙げた。
「俺の馬は雪に強い。週に二日なら正規の賃金で走る」
鍛冶屋は橇の金具を直し、北外れの家々は停留所に風除けを作った。無料だから遠慮する老人には、菓子屋が言った。
「私の売った飴一袋にも、あなたの席代が入ってる。もう払ってあるよ」
初便の日、老婆は橇を降り、若者の腕を借りて浴場の敷居をまたいだ。湯に肩を沈めると、曲がっていた背がほんの少し伸びた。
帰り道、停留所には新しい標識が立っていた。
――湯車、毎日二往復。雪の日ほど、迎えに行きます。
浴場の掲示板には、初便の乗客四人、無料席三つ、有料席一つと記された。無料席の費用に使われた露店料も、飴、毛糸、焼き栗の印で示されている。老婆は自分が施しを受けたのではなく、冬市全体から席を買ってもらったのだと理解した。帰りに彼女は停留所の雪を小さな箒で払い、『これは次の人の分』と言った。無料の客も、できる形で道をつなげた。
橇の鈴が鳴り、白い道に最初の二本の轍を刻んだ。