雷狼の首輪で終着駅を守る

暴走列車の先には、落ちた鉄橋があった。

乗客三百人を乗せた魔導列車は制御石を壊され、下り坂を加速している。機関士は気絶。非常ブレーキは何者かに切断されていた。

整備士イーヴォは屋根を走った。腕には、線路を縄張りにしていた雷角狼を倒した直後の傷が残る。狼から落ちた限定品は《零速の首輪》。速度を持つもの一つへ装着すれば、その運動だけを完全に封じる。

機械系の危機を指定すると、対応するボス品が必ず落ちる《事故対処ドロップ》。役立つ前に列車へ轢かれる、と同僚に笑われた能力だ。

先頭車両まで、あと三両。後方では車掌たちが客を床へ伏せさせ、荷物を盾に積んでいる。誰も助からないと知りながら、それでも一人でも衝撃を減らそうとしていた。

風に煽られた扉が外れ、イーヴォの足元をかすめる。客室では母親が子供を抱き、老夫婦が互いの手を握っていた。誰も「助けて」と叫ばない。その静けさが、彼を前へ押した。

崩落地点まで二百メートル。

イーヴォは機関部へ飛び込み、青白く回る主軸へ首輪を投げた。

留め金が閉じる。

列車は急停止しなかった。

先頭から最後尾へ、速度が一両ずつ丁寧に消えていく。立っていた乗客はよろめくだけ。棚の鞄すら落ちない。車輪の回転が静かにほどけ、先頭の緩衝器は鉄橋の切れ目から指一本分の位置で止まった。

しばらくして、泣き声より先に息を吐く音が全車両から聞こえた。

「完璧な停止だ……」

目覚めた機関士が呟く。

首輪には、封じた速度と同時に「破壊の起点」を記録する機能があった。留め金の内側へ、非常ブレーキを切った人物の魔力紋が浮かぶ。乗客に紛れて逃げようとした運行局長の紋章と一致した。

彼は事故を起こし、旧線廃止の補償金を得るつもりだった。

駅員たちが局長を取り押さえる中、乗客の子供がイーヴォへ小さな切符を渡す。

「終点まで、連れてきてくれてありがとう」

「まだだ。ここから歩いて、本当の終点へ行こう」

全員が列車を降りたあと、首輪の青い光が消え、鑑定欄が初めて開く。

【雷角狼限定SSR《零速の首輪》――乗員乗客三百名、負傷者ゼロの完全停止を達成】