雷紋虎の耳から銅札を外す
洗濯屋の中庭へ雷が落ち、干していた下着が一斉に宙を舞った。
煙の中心にいたのは、青白い縞を持つ巨大な虎だった。雷紋虎。都を落雷から守る聖獣だが、怒りの咆哮一つで人を炭にすると噂される。
洗濯女エマの同僚たちは、濡れた布を頭からかぶって物置へ逃げた。
エマも怖かった。だが虎が首を振るたび、右耳だけが不自然に垂れ、火花が同じ場所から散っているのが見えた。
「雷じゃなくて、耳が痛いんじゃない?」
彼女が声をかけると、虎は牙を剥いた。次の火花が物干し竿を焦がす。
エマは近づかず、洗濯籠を逆さにして座った。まず自分の耳飾りを外し、手のひらへ置いて見せる。
「そこに何かついてるなら、取るだけ。洗濯代は取らないよ」
雷紋虎は唸りながら横を向いた。
耳の付け根に、神殿の銅札が打ち込まれている。聖獣を識別するための札らしいが、穴が化膿し、緑青まで浮いていた。雷の力が銅へ流れ込み、痛むたび放電していたのだ。
エマは木の洗濯挟みを二本組み、金属に直接触れない道具を作った。
ぬるま湯で固まった血をふやかし、虎が身を震わせるたび手を離す。耳の薄皮を裂かぬよう札を横へ回し、留め針を抜いた。
銅札が石畳へ落ちた途端、空を覆っていた雲が割れた。
傷口を薬草水で洗うと、雷紋虎は大きなくしゃみをした。残った火花が桶へ飛び、洗濯物から湯気が上がる。
物置から店主が顔を出す。
「よし、これで商品にできる。聖獣を看板にすれば――」
虎が一声鳴くと、店主の派手な上着だけが雷に打たれ、見事な縮れ布になった。
エマが吹き出すと、雷紋虎は満足したように中庭へ寝転ぶ。腹を上にし、前脚で彼女の裾を引いた。青い縞が光って、掌に稲妻の契約印が走る。
恐る恐る腹を撫でると、虎の喉から轟音に似た音が響いた。雷ではない。巨大な猫が鳴らす、低い満足の音だ。
濡れた指を埋めた腹毛は、乾燥窯から出した毛布よりふっくらと熱い。片脚を腰へ載せられると息が詰まるほど重かったが、エマは笑いながら、そのまま昼休みにした。