面接は午後三時から
佐治原透子の面接は、午後三時に始まり、三時四十七分に不採用で終わった。
駅へ向かう途中、景色が巻き戻り、また午後二時五十分。受付前の椅子に座っていた。
一回目は緊張で声が震えた。十回目には質問を暗記し、五十回目には面接官三人の笑う間まで読めた。百回目、透子は理想的な志望動機を語り、全員を頷かせた。
結果は不採用。時間は戻った。
彼女には仕事が必要だった。弟の人工腎臓の保険は、扶養者が正規雇用でなければ更新できない。だから透子は「御社の理念に共感しました」と何千回でも言った。
やがて面接官の事情も見えてきた。中央の部長は三時二十一分に左手を握る。リストラ対象を決めた直後の癖だった。若い人事担当は、机の下で転職サイトを開いている。無表情な女性役員は、質問のたびに亡くした息子の写真へ触れる。
透子は彼らに合わせて人格を変えた。部長には従順に、人事には挑戦的に、役員には家族思いに。採用通知が口頭で告げられた回もあった。だが会社の門を出る前に、午後二時五十分へ戻った。
二千回目、透子は用意した笑顔を捨てた。
「本当は、この会社で働きたいわけではありません」
三人の顔が固まった。
「弟の治療を続けるため、正社員の身分が必要です。採用されたら感謝します。でも理念には共感していません。御社は去年、介護中の社員を大量に切りました」
部長が面接を打ち切ろうとした。そのとき若い人事が、初めて台本にない質問をした。
「あなたなら、何を変えますか」
透子は答えた。雇用に紐づく医療制度、家族の病気を弱点として扱う評価、嘘を上手に言う人ほど通る面接。
三時四十七分、役員は不採用通知ではなく、自分の名刺を差し出した。
「この会社には合わない。でも、制度訴訟を準備している団体を紹介します」
四時になっても時間は戻らなかった。
透子はその会社へ入れなかった。弟の保険も一度切れた。だが訴訟団体で働き、二年後、雇用と治療資格を切り離す法改正に関わった。
今も面接では緊張する。完璧な答えはもう言えない。
それでも透子は、午後三時になるたび思う。人生が進み始めたのは、採用される人間を演じるのをやめた瞬間だった。