靴底のクレジット

高槻澄麗は、踊り手の靴底に文字を見つけた。

新曲MVの振付は、澄麗が自分の代表作として発表する予定だった。実際には、撮影直前に消えた助手がほとんどを考えた。連絡が取れなくなった者へ報酬は払えない、と制作会社は言い、澄麗も異議を唱えなかった。むしろ取材では「最後は私がすべて整えた」と答えた。助手が床へ貼った目印も、書き込みだらけの練習ノートも、自分の制作物として倉庫へ運ばせた。

映像のイントロで、黒い衣装の少女が床を蹴る。宙返りの一瞬、白い靴底に二文字ずつ浮かんだ。

「踏まないで」

汚れの模様だと思い、澄麗は再生を続けた。Aメロでは少女が八の字を描き、四拍目だけ踵を浮かせる。そのたび靴底の文字が変わった。時刻、ファイル名、助手のイニシャル。動きは、助手が提出したモーションデータと完全に一致している。

二度目のジャンプで、少女はカメラへ足裏を向けた。

「踏まないで」

澄麗は反射的に振付確認画面を開いた。床のマーカーを踏まない動きだけを抽出すると、軌跡が文字になった。〈LAYER 4〉。非表示の第四レイヤーを選ぶと、完成映像の下から撮影前のリハーサルが現れた。

そこには助手本人がいた。振付を説明し、澄麗が横で頷いている。続いて、会社から権利譲渡へ署名するよう迫られ、拒否した彼女がスタジオから連れ出される場面。カメラは止まっていなかった。少女の動きは、その証拠を開くためのパスワードだった。

サビで完成版とリハーサルが重なり、黒衣の少女の中に助手の身体が透けた。観客は、誰の重心、誰の呼吸、誰の転び方から振付が作られたかを見る。

最後の一音でクレジット画面が出る。澄麗の名の下に、空白が一行だけ点滅した。少女はその空白を踏まず、脇へ避ける。

「踏まないで」

床の危険箇所を知らせる言葉ではなかった。消えた助手の名と仕事を踏み台にして、自分だけ上へ立つなという拒絶だった。

澄麗は自分の名を消し、空白へ助手の名を戻した。拍手は鳴らない。代わりに、公開されたリハーサルの再生数だけが静かに増え始めた。