骨一本ぶんの仲間
亡者学院の実習試験では、壊れた骸骨は備品として数えられる。
だからサグレナが骨兵ドゥカルの前へ立ったとき、教官は笑った。
「それは仲間ではない。壊れたら倉庫から次を出せ」
ドゥカルは百年前の兵士だが、言葉を話せない。代わりに、怖いときは奥歯を二回鳴らす。今も、かち、かち、と音がした。
「次があるから今を捨てていい、という授業は受けていません」
入学初日、地下墓所の天井が崩れたとき、ドゥカルは命令を待たずサグレナを瓦礫から引きずり出した。その代わり左腕を失い、備品係には『一体破損』とだけ記録された。サグレナは拾った骨を夜通しつなぎ直し、胸骨の裏へ彼の名前を刻んだ。番号ではなく、仲間として呼ぶために。
課題は浄化魔法から使役体を守ること。ほかの術者は使役体を自分の前へ並べ、光を受ける盾として扱った。サグレナは逆にドゥカルを背後へ下げる。彼が戸惑って肋骨を鳴らすと、『今日は正しい隊列を覚えなさい。仲間は攻撃を受けるために立つんじゃない』と言った。教室の笑い声より、骨の奥歯が鳴る音のほうが大きく響いた。
教官は初級光球を飛ばすふりをして、広間用の《聖域爆》を放った。白光と煙が円陣を呑み、周囲の練習骨が一斉に灰になる。
教官は採点板へ零を書き、途中で止めた。
煙の中から、かち、かち、と二度聞こえた。
恐怖の合図が、攻撃前と同じ調子で続いている。灰になった骨に歯は鳴らせない。
煙が晴れる。サグレナは片手を腰に当て、もう片方を前へ出した同じ姿勢で立っていた。ドゥカルは背後で頭蓋を抱え、失くしたと思った奥歯を指で確かめている。彼の骨には煤一粒ついていない。
「術を逸らしたな。なら接触ならどうだ」
教官は祭具庫から浄化大槌を持ち出した。王級亡者を砕く《聖堂鐘》で、サグレナの頭上へ振り下ろす。床が沈み、煙が天井まで跳ねた。
晴れたあとも、サグレナは同じ姿勢だった。大槌の面は彼女の掌に止まり、教官の腕だけが震えている。
ドゥカルが背後から顔を出し、今度は歯を一度だけ鳴らした。学院で教わった、笑いの合図だった。
教官は大槌を握ったまま、一歩退いた。