魔力ゼロが海を燃やす
《火はCG、魔力計は偽装》
《水中ボスを燃やすとか設定盛りすぎ》
《古賀灯の無魔力火術、スポンサー製の演出だろ》
古賀灯は、両腕の測定輪を監査員に見せた。数値はゼロ。隠し魔導具を探す検査も終わっている。
地下海の温度計と大気分析器は科学技術院の持ち込み品だ。加工映像では動かせない現地計器を、疑っていた研究者たちが遠隔監視していた。
地下海から、潮喰らいが浮上した。身体の九割が水でできた巨大魚。炎属性は触れた瞬間に消えるため、火術師には天敵だ。
灯が過去に倒した際は、蒸気で映像が途切れた。それが演出疑惑の決定打となったため、今日は耐熱ドローンが海中からも撮っている。
灯は指を一本立てる。
「火を出すのに、魔力は要らないよ。燃える理由があればいい」
潮喰らいが口を開き、津波を吐く。
灯は指を一度、鳴らした。
海が青白く燃え上がった。
炎は水面だけでなく、波の内側から広がる。潮喰らいの透明な身体にも火が走り、巨大魚は水の形を保てず蒸気へ変わった。熱風がカメラを揺らしたあと、地下海は一滴も残っていなかった。
《魔力計ずっとゼロ》
《熱源、指鳴らしの瞬間に海全域で同時発生》
《燃焼物ないのに何が燃えた?》
《解析出た。水を水素と酸素に分けて、その場で点火してる》
《一回の指鳴らしで分子結合までほどいたのかよ》
灯は焦げてもいない測定輪を外した。
「魔法じゃないから、魔力がないのは本当。強くないって意味にはならないけど」
疑惑を煽っていた検証配信者が、即座に自分のタイトルを変更した。監査員も海底に残った塩と生成物を採取し、簡易分析を公開する。
《化学組成一致。映像演出では出せない量》
《外部燃料なし》
《火術師じゃなくて物質変換者だ》
《偽物扱いしてた炎より、本人の理屈のほうが怖い》
迷宮庁と科学技術院、二つの公式アカウントが同時に認証コメントを投稿した。
【新規現象《無魔力全域電離》を共同認定】
その瞬間、配信のカテゴリ表示が『火属性攻略』から書き換わる。
『未分類――既存魔法体系外』へ。