黄色い石の会計

地質研究室の現地調査票には、廃止された蛇骨トンネルについて採取禁止の対象が一つだけ記されている。

《坑内の黄色い石を持ち帰ってはいけない》

釘宮志郎は二十八歳の大学院生だった。迷信ではなく、硫黄化合物や重金属の危険を避ける指示だと解釈した。防護手袋と試料袋を持ち、崩落箇所の手前まで入る。

壁際に、卵ほどの黄色い石が一つ落ちていた。周囲の岩盤は灰色で、それだけが乾いた油のように光っている。

成分を調べれば注意書きの理由が分かる。志郎は一度だけ迷い、石を試料袋へ入れた。

その瞬間、研究室の在庫管理アプリが鳴った。

《サンプルを追加しました》

品名:帰路

数量:1

削除しようとしても、通信圏外のはずなのに「処理中」が続いた。志郎は外へ戻った。入口の風景は変わらないが、駐車場に置いた自分の車だけ、フロントガラスの内側が黄色い粉で曇っていた。

研究室で蛍光X線分析をかけると、装置は元素名を出さず、《未精算》と表示した。指導教員に見せる前に袋ごと保管庫へ入れたが、翌朝、石は上着のポケットへ戻っていた。

捨てても、郵送しても、排水口へ流しても、次の会計時には必ずポケットにある。

三日後、コンビニのセルフレジで弁当を買った。商品を読み取り終えると、機械が警告音を出した。

《未精算の商品があります》

店員を呼ぶ前に、画面へ見覚えのない明細が追加された。

黄色い石 1点

価格 帰路

小計 1名

志郎がポケットを探ると、石は温かく脈打っていた。

支払方法の選択肢は二つだった。

《戻る》

《戻らない》

彼はどちらにも触れず、店を出ようとした。自動ドアは開かなかった。レジのカメラが顔を認識し、電子音声がいつもの口調で告げる。

「お支払い方法を本人に設定しました」

明細の《小計 1名》《受領済み 1名》へ変わる。

ポケットは空になった。

代わりに、セルフレジの硬貨受けへ、志郎の学生証が黄色い粉まみれで落ちてきた。画面にはレシート発行の案内が出た。

《お買い上げありがとうございました。出口はトンネル内です》