黒死病の真名は解毒反応
黒い斑点が出た者は、夜明け前に焼かれる。
神殿はそれを黒死病と呼び、患者ごと火へ投げ込んだ。真名鑑定師ベルクは、妹の腕に斑点を見つけて神殿へ駆けた。
【真名鑑定:対象が世界から与えられた、本来の働きを示す名を表示する】
「病の名なら我々が知っている」
大神官は妹を奪い、浄化炉へ運ばせた。ベルクは斑点へ鑑定を向ける。
表示された名は、病ではなかった。
銀鉱毒排出反応。
黒い斑点は、人を殺す毒ではない。体内の毒を皮膚へ集め、外へ出そうとする治癒の働きだった。焼かれた者たちは、回復しかけていたのだ。
「炉を止めろ! これは病ではない!」
大神官は杖を振る。
「異端者め。神殿の聖水を疑うか」
その言葉で、ベルクは原因を悟った。斑点が出たのは、毎朝聖水を配られた貧民街だけだ。
彼は大神官の杯を奪い、中身へ鑑定を向ける。世界が与えた名は、聖水ではなく「銀鉱精錬毒の希釈液」だった。
大神官は鉱山主から金を受け取り、廃液を聖水として捨てていた。病人を焼けば証拠も消える。
ベルクは杯を大神官の白い法衣へ浴びせた。法衣が黒く変色し、隠していた銀の粉が浮かぶ。群衆がどよめき、衛兵が炉の扉を開けた。
妹はまだ生きていた。
ベルクは斑点を拭わず、毒を吸い出す薬草を当てる。黒い色は薄れ、呼吸が整っていく。
大神官が連行される横で、焼却名簿は治療名簿へ書き換えられた。
ベルクは神殿の鐘を治療開始の合図に変えた。斑点の出た者を隔離するのではなく、井戸水を止め、薬草湯を配る。翌朝には多くの患者の黒色が薄れ、死者が一人も出なかった。これまで異端とされた町医者たちも炉の前へ集まり、焼かれた人々の名を読み上げる。大神官が隠した罪は、病名を正しく呼び直した瞬間から隠せなくなった。
妹は目を覚ますと、自分の斑点を隠さなかった。それは死の印ではなく、生きようとした身体の証しだと皆へ見せた。
その最上段に記されたベルクの職業も、同時に変わる。
【職業:真名鑑定師 → 真名病理鑑識医】