黒球の交代

薄井皓介は、母校の体育館から備品を買い取るリユース会社に勤めていた。二十九歳。倉庫の奥から、空気の抜けない黒いバスケットボールが出てきた。

バスケ部の古い掲示板には、試合記録と一緒に一文が固定されていた。

《倉庫の黒いボールを、三度続けてついてはいけない》

戦前、この町では葬列の人数が足りない時、黒い毬を地面へ三度つき、死者の代わりを一人呼ぶ風習があった。体育館では退部者のユニフォームと一緒に、その毬を倉庫へ封じたらしい。

皓介はボールの反発を査定するため、床へ一度ついた。二度目には、無人の得点板が点灯した。

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三度目をやめればよかったが、不良品の証拠動画を撮りたくなり、皓介は一度だけ三回目をついた。

ボールは戻らなかった。床の影へ沈み、代わりに背後でシューズが鳴った。得点板が《選手交代》へ変わり、皓介の名前の横にOUTと表示される。倉庫の鏡には、皓介と同じ背丈の選手が黒いユニフォームで立っていた。

査定用動画を確認すると、三度目の直前から皓介は二人映っていた。一人がボールをつき、もう一人が鏡の内側でユニフォームを脱いでいる。三度目の反響と同時に二人の位置が入れ替わり、外へ逃げた方の顔だけ映像圧縮で崩れていた。備品台帳では黒いボールが《返却済み》となり、代わりに皓介の私服一式が《競技用具》として登録された。

皓介は体育館を飛び出した。翌朝、会社の監視映像には、黒いユニフォームの男が彼の社員証で出勤し、同僚へ普通に挨拶する姿が残っていた。同僚たちは、その男を皓介だと認識している。

会社の内線へ自分の番号から電話すると、交代選手が出た。「今日は休んでいい」と皓介の声で言い、背後では体育館のドリブル音が三回ずつ続いていた。

本人が入口へ行くと、顔認証ゲートは開かなかった。

スマートウォッチが震えた。

《プレー時間 24時間00分》

《薄井皓介 OUT》

《交代選手 生活を開始》

画面には自宅の見守りカメラが映った。黒いユニフォームの男が皓介の部屋で着替え、彼のスーツを選んでいる。