鼠たちの引っ越し

古い家を売り、息子の近くの集合住宅へ移ることになった。

老女は荷物を減らした。

夫の机、子どもの玩具、大鍋。

残す物と捨てる物へ、思い出を無理に分けた。

最後の夜、台所から灰色の作業服を着た小人たちが現れた。

細い尻尾がベルトから伸びている。

昔、駆除業者が床下の鼠を捕まえたとき、老女は親子だけを河原へ逃がした。

その子孫だという。

「三度、持っていくか迷った物を一つだけ、新居へ運べます」

老女は夫の大きな机を指した。

階段を通らず、置き場所もない。

鼠たちは匂いを嗅ぎ、

「一度しか迷っていません」

と断った。

本当は最初から諦めていたのだ。

大鍋も二度。

古い写真箱は迷わず持っていくと決めている。

鼠たちは家中を走り、廊下の柱で止まった。

そこには、息子と娘の身長を刻んだ線がある。

引っ越し業者へ、

「柱を切れないか」

と一度聞き、断られた。

大工へ相談しようとしてやめ、最後に自分で鉋を当てかけた。

三度迷った物だった。

「家の一部よ」

「だから、家からしか運べない」

鼠たちは夜じゅう柱の表面を薄く削った。

老女は止めたくなった。

家を傷つければ、新しい持ち主に迷惑だ。

すると一匹が、押し入れから同じ幅の古板を運び、削った場所へぴたりとはめた。

色は違うが、壁は保たれた。

朝、細長い木片が食卓に置かれていた。

身長線と日付、子どもたちの悪戯書きまで残っている。

線と線の間には、背が伸びなかった冬や、家族で測るのを忘れた年の空白もあった。

老女は、刻まれなかった時間まで木片の一部だと思い、そっと撫でた。

鼠たちは消え、床に小さな木屑だけがあった。

新居へ運ぶと、息子は困った顔をした。

「壁に貼るの?」

「嫌?」

「うちの子の線も足していいなら」

木片を玄関の柱へ取り付けた。

孫の最初の線は、父親である息子の最後の線よりずっと下に刻まれた。

老女は夫の机を持ってこなかった。

写真箱も半分は整理した。

すべてを残さなくても、家族の時間が消えるわけではない。

鼠の恩返しは、思い出を丸ごと運ぶことではなかった。

新しい家で続きを刻める形へ、古い家から一筋だけ切り分けることだった。