LEDの雨

冬木央介が徹夜で仕上げていたのは、前夜の大型ライブを一分にまとめる映像だった。朝八時、公式サイトで公開する。依頼は派手な光と観客の熱気を残すこと。それなのに、正面カメラの映像には黒い帯が雨のように流れていた。

舞台背面の巨大LEDとカメラの周期が合わず、フリッカーが出たのだ。正面には歌手と五万人の客席が一緒に映る最高の画が多い。全部捨てれば、一分が舞台袖からの横顔だけになる。

黒い帯は小さな画面では目立たないが、会場の熱気を見せようと明るさを上げるほど濃く浮いた。進行担当はスマートフォンでしか確認していなかった。央介は公開先の大きな画面を想定し、暗い部分を持ち上げた状態でも試した。見えないのではなく、まだ見つかっていない欠点だった。

進行担当は修正機能を全カットへかけるよう急かした。央介は先に十秒だけ試した。隣り合う画像を混ぜるフレームブレンドで黒い帯は薄くなる。しかし激しく踊る場面では腕が二本に見え、背後の公演ロゴも二重になった。

彼は同じ処理を一律に使わなかった。歌手が立ち止まって客席へマイクを向ける広い映像には弱くかける。踊りの速い部分は舞台袖のカメラへ切り替え、正面の光だけを短く挟む。帯が逆方向へ動く二枚を選べば、混ぜたとき互いを打ち消すことも見つけた。

レンダリングには二十分かかる。失敗してやり直せば公開に遅れるため、央介はロゴ、顔、指先の三か所だけ先に拡大確認した。黒い雨は消え、動きの残像もなかった。

完成版では、歌手が息を切らして立ち止まり、五万人が代わりに歌う。LEDの海が明るく広がり、その次の瞬間、舞台袖から歌手が走り出した。カメラの欠点を隠す切り替えが、休止と再出発のように見えた。

公開担当がデータを受け取るころ、編集室の窓は白み始めていた。央介が椅子から立つ前に、廊下から別の保存カードが運ばれてきた。

「昼公演の出演者コメントです。正午公開で」

画面には、また同じLEDが点灯していた。