『回答番号0001』

朝礼の表彰式で、丹羽春臣は「倫理推進賞」の盾を受け取るはずだった。

推薦理由は匿名社員アンケートだった。十八件の回答が丹羽の迅速な対応を称え、同時に部下の霧島美緒を〈苦情を隠した担当者〉と告発していた。

壇上で丹羽は謙遜した。

「部下の失敗を責めるつもりはありません。組織として学べばいい」

霧島は列の後ろで唇を噛んだ。

表彰状を持つ岩倉敏久が、読み上げる前に手を止めた。

「回答番号が、なぜ全部連番なんでしょう」

匿名アンケートは社員ごとに無作為な番号を発行する。ところが推薦資料は、0001から0018まで順に並んでいた。送信時刻も十時〇〇分から十時二分までに集中している。

丹羽は「朝会で皆に回答してもらった」と説明した。

岩倉は会議室予約を映した。その時間、十八人は顧客先、在宅、休暇に分かれている。予約されていた研修室に入ったのは丹羽一人。無線LANの接続端末も一台だけだった。

「代理入力です。口頭で聞いた評価をまとめた」

「一人一回の回答リンクを、どうやって十八個使ったんですか」

発行履歴には、丹羽が管理者用の再発行機能を連続使用した記録があった。自由記述の誤字〈隠べい〉も十八件で一致している。

岩倉は、苦情管理システムの履歴を続けて出した。最初に製品事故を匿名通報したのは霧島だった。丹羽はその通報を四日間保留し、顧客へ連絡した霧島を〈権限逸脱〉として低評価にした。十八件の告発は、その責任を逆に見せるためのものだった。

盾を持った社員が、丹羽の前を通り過ぎた。

岩倉が表彰状の宛名を読み直す。

「本年度の倫理推進賞は、通報後も顧客対応を止めなかった霧島美緒さんへ授与します。丹羽部長の表彰および評価権限は取り消します」

霧島が保全していた最初の苦情には、事故品の製造番号と顧客への連絡時刻が正確に記されていた。丹羽の報告は四日後なのに、推薦アンケートでは〈当日中に解決〉へ書き換えられている。岩倉が回答の作成端末をロックすると、丹羽の手元のタブレットが同時に操作不能になった。盾の裏へ刻む予定だった受賞者名も、会場の端末でその場で変更された。

回答番号0001から始まった拍手は、十九人目で初めて本物になった。