とろみは時計で測れない

介護施設の厨房で、午後の水分補給を出す十五分前、鷹栖未緒は麦茶の一杯が妙に重く落ちるのを見た。別の一杯は水のように流れる。同じ容器から注いだはずだった。

廊下では介護職員が配膳車を待ち、厨房内には「あと十分」の声が飛んでいた。未緒は薄い、濃いという感想だけで判断しなかった。同じ杯でも、作ってからの時間と温度が違えば見え方が変わる。急いで揃えようとするほど、ばらつきは大きくなる。

新人は薄い方へとろみ剤を足そうとした。未緒は計量匙を押さえた。足りないように見えても、混ぜた直後と数分後では状態が変わる。目分量で重ねれば、今度は濃くなりすぎる。

彼女は作った時刻を確認した。濃い方は十分前、薄い方は一分前だった。さらに薄い方の麦茶は冷蔵庫から出したばかりで、濃い方は室温に置かれている。作業者が配膳車へ急ぐため、一つの大容器で作らず、温度の違う飲み物へ同じ手順で加えていた。

杯の並びも変えた。作成直後は白い札、確認待ちは黄色、確認済みは青。途中で別の職員が手伝いに入っても、どれへ手を加えてよいか一目で分かる。待つことを作業の空白にせず、確認の工程として見えるようにした。

未緒は全二十四杯を作成時刻で分け、規定の時間が経つまで追加をしなかった。待っている間に、ミキサー食の名札と飲み物の番号も照合する。時間が来たものから一杯ずつ状態を確認すると、薄かった杯の多くは適切なところまで変化していた。濃すぎる二杯だけは手を加えて薄めず、最初から作り直した。混ぜ直しで均一になる保証がないからだ。

「急いでいる時ほど、足したくなります」

新人が言った。

未緒は時計ではなく、作成表へ目を向けた。「待った時間を残しておけば、次の人が急がなくて済む」

未緒は余った一杯を捨てる前に、時間ごとの変化を新人と見比べた。次からは見た目だけで匙を足さないためだった。

十四時、配膳車は予定どおり出た。戻ってきた空の容器を洗い始めたところで、栄養担当が夕食後の追加分を持ってきた。

今度は温かい茶だった。未緒は新しい作成表の温度欄を先に埋めた。