アルバムの閲覧権限
唯乃は結婚式の準備用に、母と共有アルバムを作った。使ってよい写真を十枚だけ入れるつもりだった。
ところが昼休み、アルバムに三十六枚の写真が追加された通知が来た。母が実家の古いデータを入れたのだ。
その中に、小学生の唯乃が白いレースの服を着た写真があった。発表会のたびに着せられ、「女の子らしく笑って」と何度も撮り直された服。写真の唯乃は笑っているが、両手は裙を握りしめていた。
母からチャットが届く。
〈この写真、プロフィールムービーの最初にしよう〉
〈みんな可愛いって言うよ〉
唯乃はアルバムを開き、その写真の共有を外した。続けて、母の追加権限も閲覧だけに変更する。
〈勝手に消さないで〉とすぐ来た。
〈消してない。私の式で使わない写真にしただけ〉
〈思い出まで否定するの?〉
唯乃はデスクの下で深呼吸した。母の思い出を奪いたいわけではない。しかし母の「可愛い」が、今も唯乃の顔を決めるのは違う。
〈母さんが持っているのはいい〉
〈でも、人に見せる写真は私が選ぶ〉
既読のあと、母から電話が鳴った。唯乃は出ず、チャットへ戻る。
〈今日の夜、十枚を一緒に選ぶなら話せる〉
〈白い服の写真は候補に入れない〉
一時間後、母から〈じゃあ十枚送って〉と来た。怒っているのか、諦めたのかは分からない。
夜、唯乃は自分で選んだ写真を五枚だけ追加した。泥だらけの運動靴、祖父の膝で眠る横顔、大学の卒業式。どれも母の選ぶ「女の子らしさ」から少し外れている。
〈あと五枚は、週末に一緒に〉
母から、了解のスタンプが一つ届いた。
追加された写真には、母のコメントも付いていた。〈このころが一番素直〉〈反抗期前〉。式場の担当者や婚約者が見るアルバムで、唯乃の人生が母の採点表に変わっていた。唯乃はコメントを非表示にし、共有リンクも新しく作り直した。母を締め出すのではない。誰が何を足せるのかを、思い出にも設定できると知った。
唯乃はアルバムを閉じた。共有することと、所有されることは同じではない。五枚分の空白を残したまま、今日は眠ることにした。