カレー色の弁当箱

「弁当箱の黄色、落としておいて」

小田切若菜は、ベッド脇の紙袋から青い弁当箱を出した。蓋にはロケットの絵があり、本体の内側はカレーで薄く黄ばんでいる。

「新しいの買えばいいじゃん」

「駄目。あの子、これじゃないと食べないから」

友人の息子は五歳だ。明後日から、祖父母の家で暮らすことになっている。友人がそこへ戻れないことは、若菜も知っていた。

弁当箱は昨日、保育園から返ってきたままだった。角に米粒が乾き、ゴムパッキンにはにんじんの欠片が挟まっている。蓋のロケットには、息子が青いクレヨンで描いた線が一本あった。友人はそれを落書きではなく「噴射の煙」と呼んで、消さずにいた。

若菜は病室の流しで洗おうとしたが、友人が家でやってと言った。

「病院の洗剤、匂いが違う」

若菜は弁当箱を紙袋へ戻し、友人の部屋の鍵を借りた。

誰もいない台所には、子どもの踏み台が流しの前に置かれていた。スポンジは二つあり、魚の形をした黄色いほうに「おべんとう」と油性ペンで書いてある。

若菜はぬるま湯に弁当箱を沈めた。乾いた米が浮き、カレーの匂いが戻ってくる。洗剤をつけてこすっても、黄色は薄くならない。

棚を開けると、重曹の袋と、友人の字で書かれた小さなメモがあった。「熱湯は変形する。四十度くらい」。頼む前から、失敗まで予想されていたらしい。

若菜は鍋で湯を沸かし、水を足した。指を入れて、少し温かい程度にする。重曹を溶き、弁当箱を浸した。

待つ間、買い替えたほうが早いという考えが何度も浮かんだ。けれど新しい弁当箱には、蓋の裏の細い傷も、息子が貼って剥がした星のシール跡もない。

冷蔵庫には、月曜用に切ったウインナーが小さな袋へ入っていた。若菜は触らなかった。頼まれたのは来週の弁当を作ることではない。この箱を、また使える状態に戻すことだけだ。

十五分後、黄色は完全には消えていなかった。若菜は魚のスポンジでもう一度、底から縁へ円を描いた。青色が少しずつ戻ってくる。

最後にゴムパッキンをはめ、蓋の四隅を順番に押した。

ロケットの絵が正面を向いたところで、四つ目の留め具がかちりと閉じた。