ギルド婚イベントを中断します

VRMMO〈王冠年代記〉で大規模レイドを全滅させた回復役カナメは、敗戦処理として敵対ギルド長との「同盟婚」を命じられた。イベントを受諾すれば、所属ギルドと所持拠点は相手へ譲渡される。

白亜の教会で、画面中央に〈誓いますか?〉の選択肢が浮かぶ。全滅の直前、カナメは回復対象を間違えた。仲間の装備耐久も経験値も失わせた。フレンド欄は三日間、誰もログインしていない。見限られたのだと思った。ギルド倉庫から自分の回復薬だけが消えていたことも、その証拠に見えた。実際には三人が証拠集めに持ち出していたのだが、彼女には知る術がなかった。

〈はい〉へ指を伸ばしたとき、足元へ伝説剣がドロップされた。

剣士バロックが所有権を放棄し、素手で立っている。

『預ける。ロストしても請求しない。だから持って帰れ』

パーティー欄では弓使いシュガーが四枠目を空けたまま、募集設定を〈固定〉へ変えた。

『補充しないよ。君の枠だから』

教会外の転移門には騎獣使い薄荷が、三人乗りの夜鷹を停めていた。自動帰還を切り、手動待機へ変更する。

『ログアウトしても待つ。朝になってもね』

敵ギルド長が強制進行を選ぶ。だがバロックの剣を装備した瞬間、武器に保存されていた戦闘ログが開いた。カナメの誤回復は、ギルド長が偽装した敵味方表示によるもの。しかも彼女は最後の一秒で全員へ蘇生予約を入れ、経験値損失を半分に抑えていた。

運営判定が下る。

〈不正同盟イベントを停止しました〉

歓声がチャットを埋めても、カナメはパーティー申請を押せなかった。表示が正しくても、自分が操作を誤る日はある。次の全滅で、三人は本当にフレンドを解除するかもしれない。

『また失敗したら?』

バロックは剣の返却申請を出さない。シュガーは空き枠を閉じない。薄荷は夜鷹へ待機命令を重ねた。

『そのときも、リスポーン地点で集合』

カナメは〈婚姻拒否〉を押し、三人のパーティーへ戻った。剣、空き枠、転移門。ログアウトしても消えない帰還先が、画面の三か所で同時に点灯していた。