ケチャップのない星

花屋の閉店作業をしていた郁乃のもとへ、向かいの洋食店からオムライスが届いた。配達を頼んだ覚えはない。紙袋を持ってきた店主の増谷は、「受取人はここです」としか言わなかった。

考えられるのは増谷、残業中の同僚・藍原、それから昼に「話がある」とだけメッセージを寄こした妹の梨央だった。増谷は郁乃が夕食を抜きがちなのを知り、藍原は何度も賄いを分けてくれる。梨央とは、母の葬儀以来、半年まともに話していない。

蓋を開けると、卵の合わせ目が小さな星形に切られていた。ケチャップはかかっていない。伝票の注文名は「りんご二個」。子どもの頃、姉妹が母にだけ通じる合言葉として使っていた言葉だった。

「梨央ですね」

増谷は黙って、カウンターの端に置かれた古いレシピ帳を示した。郁乃たちの母は若い頃、この店で働いていた。星形の切れ目も、ケチャップを別添えにすることも、母の作り方だった。

葬儀の花を決めるとき、梨央は白い花だけでは寂しいと言い、郁乃は仕事の癖で「故人らしさより整って見える方がいい」と退けた。梨央は怒って帰り、郁乃も謝れないままだった。

今日、梨央は母のレシピを増谷に持ち込み、一皿だけ作ってほしいと頼んだ。直接届ければ会わなければならない。だから配達先だけ花屋にし、注文者の欄を合言葉にしたのだ。

藍原は店の奥から、隠していた小瓶を出した。梨央が置いていった、刻んだ赤いパプリカだった。「お母さんの花には、赤もあったって」

母は白い花を好んだが、台所にはいつも赤い布巾を掛けていた。梨央が言いたかったのは、葬儀を華やかにしたいということではなく、整った白だけで母を説明したくないということだった。郁乃は花の専門家として正しい答えを急ぎ、妹が覚えている色を聞かなかった。皿の小さな赤は、半年遅れで差し出された意見であり、謝罪でもあった。

郁乃は星の中央に赤を一粒載せ、写真を撮って妹へ送った。

オムライスを一口食べてから、もう一文打つ。

――次は二人分、注文しよう。