タクシーは半分まで

飯島結月が終電を逃した地方駅で、最後の一台のタクシーを見つけたとき、同時に別の女性も手を上げた。

駅前には店もなく、次の車は一時間後だという。結月の家は東へ二十キロ、女性の目的地は途中から北へ八キロ。運転手は、回り道なら両方送れると言った。

「料金、半分ずつでいいですか」

女性の提案に、結月は首を振った。

「私は遠いので、距離で分けましょう」

「一人なら乗れなかったんだから、権利は同じです」

「席の値段じゃなくて、走った距離の値段です」

結月は一円単位まで割り勘にするほうで、曖昧な親切が苦手だった。女性は、細かく測るほど弱いほうが遠慮すると言う。どちらも譲らず、運転手がメーターを指で叩いた。

女性の迎えは、北へ曲がる交差点の二十四時間営業のファミリーレストランまで来られるらしい。そこまでなら結月の経路からほとんど外れない。

「では、そこまでを半分。その先は私が払います」

「半分の基準が違います」

「違うままで計算できます」

二人は後部座席へ乗った。運転手が「お知り合いですか」と尋ねると、二人は同時に「今会いました」と答えた。その一致だけがおかしく、どちらともなく短く笑った。

女性は結月の大きな旅行鞄を先にトランクへ入れ、結月は女性の濡れた傘をビニール袋へ入れた。車内では互いの勤め先も家族も聞かず、地図上の曲がり角だけを確認した。知らない人の事情を知ることと、安全に同乗することは別だった。助けた分を料金から引く話はしなかった。

交差点でメーターを一度止め、表示額を二で割る。女性は一万円札しかなく、結月が細かい紙幣を出した。女性は釣りを受け取り、結月の掌へ一円まで載せた。

「そこまで正確に返すんですね」

「あなたが距離で払わせてくれたので」

タクシーを降りた女性が店の灯りへ入るまで、結月は発車を頼まなかった。女性も自動ドアの内側から、車が動くまで立っていた。見送る理由を互いに安全確認と呼ぶか、礼儀と呼ぶかは分からない。運転手が「もういいですか」と尋ね、結月は店内で女性が店員へ声をかけたのを見てからうなずいた。公平の意味は最後まで違ったが、暗い駅へ片方を残す案だけは、二人とも選ばなかった。