プルタブの返事

自販機の炭酸飲料には、同じ形のプルタブがついている。

それなのに彼女は、開けるたび形を確認した。

「何見てるの」

「占い」

「丸なら何?」

「今日は話していい日」

「全部丸だろ」

「気分の問題」

放課後、私たちは駅のホームで一本ずつ飲んだ。部活もクラスも違うのに、帰りの電車だけ同じだった。

卒業まであと一か月。

彼女は県外へ進学し、私は地元へ残る。

言いたいことがあった。

けれど口にすれば、残り一か月の距離まで変わりそうで怖かった。

「今日のプルタブは?」

私が聞くと、彼女は缶を見せた。

「返事していい日」

「誰に?」

「まだ聞かれてない」

電車が遅れ、ホームには冷たい風が吹いていた。

私は缶の残りを一気に飲んだ。炭酸が喉へ刺さり、咳き込む。

彼女が笑った。

「そんなに急がなくても」

「電車来るから」

「あと十二分」

「表示見た?」

「毎日見てる」

十二分あれば言える。

十二分しかないから言えない。

隣のホームを貨物列車が通り、音が消えたあと、私は聞いた。

「向こうへ行っても、連絡していい?」

彼女は少し考えた。

「それ、質問?」

「一応」

「もっと聞くことあると思った」

顔が熱くなった。

「じゃあ、好きな人いる?」

彼女は缶のプルタブを指で弾いた。

「いる」

「向こうの学校?」

「まだここ」

胸が沈むのと浮くのが同時だった。

電車のライトが遠くに見えた。

「僕だったりする?」

言った瞬間、炭酸の泡より軽い質問に聞こえた。

彼女は笑わなかった。

自分のプルタブを外し、私の手のひらへ置いた。

「返事していい日だから」

「何の意味?」

「丸」

「だから全部丸だろ」

「輪っか。切れないってこと」

電車がホームへ入ってきた。

彼女は先に乗り、ドアの向こうから手招きした。

「返事、まだ」

「乗ってから」

座席へ並ぶと、彼女は小さな声で言った。

「私も」

聞き返さなかった。

卒業後、二人の距離は電車で三時間になった。

連絡が途切れそうな日、私は机の引き出しからプルタブを出した。

ただの薄い金属だった。

それでも、丸い形を見ると、駅のホームで言えた一言を思い出した。