ポイントで一輪
莉央はスーパーのレジ前で、黄色いガーベラを見つけた。
透明な細い袋に一輪だけ入って、百九十八円。茎の先には小さな保水材が巻かれている。給料日まで五日なのに、花を買う理由はなかった。食べられないし、洗えないし、長くても一週間でしおれる。
莉央は一度通り過ぎ、惣菜売り場へ向かった。半額になったおにぎり二個と、もやしをかごに入れる。牛乳は残りを思い出して戻した。ヨーグルトも戻した。買うものを減らすたび、かごの底が広くなった。
セルフレジで会員証を読み取ると、保有ポイント百七十三と表示された。
莉央は画面を見たまま、後ろを振り返った。黄色い花が、レジ脇の蛍光灯の下でまっすぐ立っている。
ポイントは現金と同じだ。日用品に使えば、その分だけお金が残る。二十五円を足して花を買うなんて、給料日前の行動ではない。頭では分かっていた。
それでも、かごを置いて一輪を取りに戻った。
会計は四百六十一円。ポイントを全部使い、現金で二百八十八円払った。レシートには「今回ご利用ポイント 173P」と印字され、その下に花の品名が「切花」とだけ書かれていた。
帰宅すると、花瓶がなかった。空になったパスタソースの瓶を洗い、ラベルを剥がす。粘着が残ったが、後ろ側へ向ければ見えない。茎を台所ばさみで少し切り、水に入れた。
ローテーブルの上に置くと、ワンルームの中でそこだけ色が濃かった。散らかった郵便物も、乾かしているマグカップも消えはしない。それでも花の周りに、小さな余白ができたように見えた。
莉央はおにぎりを皿に移さず、包装のまま食べた。もやしは明日使う。今日は料理をしない。
ポイントを日用品に使わなかったことへの後悔は、少しある。百七十三円分の正しさを手放した気もする。
けれど、黄色を見ながら食べる冷たいおにぎりは、いつもの給料日前より寂しくなかった。
花は役に立たない。だからこそ今夜、役に立ったのかもしれないと莉央は思った。
ガーベラの花びらには一か所だけ折れ目があった。莉央はそこを正面に向けた。傷のない側だけを見せなくても、黄色は黄色だった。
翌朝まで咲いていれば十分。そう思うと、短さまでぜいたくには感じなかった。