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榎並圭介は、駅前カフェの個室ブースを二時間予約していた。
大手通販会社の「顧客体験部長」最終面接。ブースの壁には《通話可・飲食物の持込みは注文品のみ》と掲示されている。画面には役員三人が並び、榎並は柔らかな笑顔で語った。
「現場で働く人を尊重することが、最高のサービスにつながります」
休憩に入ると、役員たちの映像が消えた。榎並はヘッドセットを首へ下ろし、呼び出しボタンを連打した。
バリスタの室戸蒼が来る。
「コーヒーが冷めた。替えて」
「恐れ入ります。お持ちしてから四十分ほど――」
「言い訳は聞いてない。面接中なんだ。無料で新しいのを持ってくるのが気遣いだろ」
蒼は、保温ポットの貸出しなら無料、作り直しは追加注文になると説明した。榎並は伝票を丸めて机の下へ落とし、ブースの扉を開けて店内を見回す。
「この店、音もうるさい。ミキサー止めさせて。あと隣の客の充電器を抜いて、俺のパソコンにつないで」
「ほかのお客様のものには触れられません」
「アルバイトは判断するな。責任者を呼べ」
「本日の責任者は私です」
榎並は名札を見て笑った。
「若いね。客が誰かも分からないから、その年でコーヒーを運んでるんだよ。俺がこの会社に入れば、こういう店は評価一つで取引停止にできる」
蒼は注文端末を閉じた。
「追加のコーヒーは、いかがなさいますか」
「もういい。面接が終わったら本部へ苦情を入れる。君の名前も覚えた。今日の売上より大きな損をさせてやる」
そのとき、パソコンから小さく咳払いが聞こえた。
榎並は振り返る。画面は暗いままだが、右上のマイク表示だけが緑に点灯していた。
『榎並さん』
役員の一人の声だった。
「え、休憩では」
『映像のみ停止しました。音声は接続したままです』
別の役員が続ける。
『当社が今回採用するのは、立場の弱い相手へ敬意を払える顧客体験部長です』
画面が再び明るくなった。三人の前には、採点表が伏せられている。
『最終面接は、ただいまをもって終了します。不採用です』