七人分のキャンセル

遥乃は三十歳の誕生日に、七人分の席を予約していた。

学生時代からの友人たちと、節目だけは集まろうと決めていた。丸いテーブル、窓際、デザートに小さなろうそく。予約確認メールを開くたび、三十代の入口も七人なら怖くない気がした。

一週間前から、キャンセルの連絡が届き始めた。

体調不良、先約の勘違い、引っ越しの手伝い。誰も悪くない理由ばかりだった。最後の一人から〈また改めて祝わせて〉と届いたとき、予約人数は遥乃だけになった。

店の規約では、前日正午までなら無料で取り消せる。変更画面には二つのボタンがあった。

〈予約をキャンセル〉

〈人数を変更〉

遥乃はキャンセルに指を置いた。

一人で誕生日のコースを食べるなんて、寂しさを展示しに行くようなものだ。店員に気を遣われ、周囲の客に見られ、家へ帰ってから余計に惨めになるかもしれない。

けれど、本当に嫌なのは一人で食べることではなかった。七人がそろわなければ祝う価値がない、と自分で決めることだった。

正午まであと六分。遥乃は店へ電話した。

「七名を一名に変更できますか」

店員は間を置かず、「もちろんです。テーブル席とカウンター、どちらになさいますか」と尋ねた。

遥乃は丸いテーブルを想像した。空いた六脚が目に入れば、来なかった人の理由を一つずつ数えてしまう。

「カウンターでお願いします」

誕生日の夜、店は思ったより騒がしかった。遥乃は料理を一皿ずつ食べ、誰かの返事を待たずに次の飲み物を選んだ。楽しいだけではない。途中で何度か、七人ならどんな会話をしただろうと思った。

最後に、小さなろうそくの立ったデザートが置かれた。

店員は歌わず、「おめでとうございます」とだけ言った。

遥乃は一人で火を消した。願い事はしなかった。三十歳までに誰かと出会うことも、来年は七人そろうことも願わなかった。

会計票の〈ご利用人数〉には、訂正線の横に「一」とある。遥乃はその数字を隠さず財布へ入れた。

集まれなかった寂しさも、一人で食べた満足も、どちらかを嘘にしない。その夜を自分の誕生日として引き受け、店の扉を押した。