七度目の拒絶

地下礼拝堂の祭壇で、クルセラは死者と向かい合っていた。

花婿ダルシェンは三年前に埋葬された領主だ。乾いた唇には金糸が通され、胸の穴から黒い根が伸びて参列者の足首へ絡んでいる。婚礼が成立すれば、死者は若い肉を得て蘇り、代わりにクルセラの弟ナエルを含む七人が墓へ連れていかれる。

彼女の奥歯には、歯列の女王と呼ばれる悪魔が潜んでいた。

契約は、儀式で強いられた問いへ「いいえ」と答えるたび、その内容を現実から否定できるというもの。その代わり、歯が一本、悪魔の牙へ変わる。

司式者が一つ目の問いを読む。

「花嫁は自らの意志でここへ来たか」

「いいえ」

奥歯が伸び、頬の内側を裂いた。祭壇の扉が開き、彼女を運んだ兵たちの契約印が砕ける。

「花嫁は家族を捨て、夫へ従うか」

「いいえ」

二本目の牙。ナエルの足首を縛る根が一本切れた。

三つ目。花嫁は血を夫へ与えるか。

「いいえ」

杯の血が灰になる。

四つ目。花嫁は声を夫へ預けるか。

「いいえ」

死者の喉に集まっていた声が逃げ、参列者たちが悲鳴を上げられるようになった。

五つ目。花嫁は夫の命を自分より重くするか。

「いいえ」

牙が唇を押し上げる。ダルシェンの胸に灯っていた赤い火が弱まった。

司式者は震えながら六つ目を読む。

「花嫁は、この婚姻を永遠と認めるか」

「いいえ」

金糸が腐り、死者の口が開いた。中から無数の蛾が飛び出す。六本の牙を持つクルセラの声は、もう人のものより低かった。

祭壇の根はまだ一本、ナエルの胸へ繋がっている。婚姻簿の最後の問いが血で浮かんだ。

《花嫁は、生きた人間であるか》

これに「はい」と答えれば儀式は成立する。「いいえ」と言えば問いは否定される。人間の花嫁が存在しない婚礼は崩れる。しかし言葉どおり、クルセラ自身も人ではなくなる。

ナエルが首を振った。

「姉さん、僕はいい」

クルセラは弟の額に触れた。六本の牙の隙間から、最後の拒絶を押し出す。

「いいえ」

七本目の歯が黒い牙へ変わった。

同時に彼女の瞳孔が縦に裂け、心臓の音が二つに増える。婚姻簿の文字は《花嫁不在》へ書き換わり、ダルシェンの身体が内側から崩れた。根は灰となり、七人の足首から落ちる。

ナエルは自由になった。彼は祭壇へ駆け上がり、クルセラを抱こうとして止まった。

姉の口には七本の牙が並び、皮膚の下を黒い鱗が走っていた。鼻を鳴らすたび、死者の匂いに喉が震える。

「姉さん……だよね」

今度こそ「はい」と言えばよかった。

けれど七度の拒絶で作り替えられた口は、肯定の形を忘れていた。クルセラが開いた唇から出たのは、墓の奥の獣が獲物へ返す、低い唸り声だけだった。