中身から食べる
中原真名の妹は、破れた春巻きを六本、皿へ並べた。
油へ入れた途端に皮がほどけたらしく、端から春雨と挽き肉がこぼれている。生姜の匂いだけはよく立っていたが、皮は油を吸って柔らかく、持ち上げると皿へ戻った。
「見た目、最悪だけど」
妹は笑った。真名は笑えなかった。
今月も、妹から五万円を貸してほしいと連絡が来た。美容学校の教材費、友人の結婚式、スマートフォンの修理。理由は毎回違う。返済日は一度も守られていない。
両親は、姉妹で助け合っていると思っている。真名もそう思いたかった。妹が就職するまで、生活が落ち着くまで、もう一度だけ。そうして貸した金は百万円を超えた。母は電話のたび、「あの子には真名がいるから」と安心した声で言う。その言葉を否定すれば、家族の中で役に立つ場所まで失う気がした。
真名自身は二か月、家賃を待ってもらっている。勤務先の契約が減り、貯金は底をついた。昼食を抜き、定期券の区間を短くしても足りない。妹へ貸せないとは言えなかった。頼られる姉でいられなくなれば、二人の間に何が残るのか分からなかった。金を渡すたび妹は泣いて礼を言い、その数日だけ昔のように連絡をくれた。
真名は一本目の春巻きから、こぼれた中身だけを箸ですくった。柔らかい皮は皿へ残す。二本目も同じように、中の春雨と肉だけを食べた。
妹は途中から、笑うのをやめた。
六本のうち、五本を中身だけにした。最後の一本は破れていなかった。きれいに巻かれたそれを、真名は食べずに皿の中央へ移した。
鞄から、妹のために用意した封筒を出す。中には五万円ではなく、これまでの振込履歴と、自分の家賃の督促状を入れていた。封筒を、最後の春巻きの下へ置く。
「今月は貸せない」
妹の顔が強張った。真名は説明を続けなかった。
皿に残した皮は、姉らしさの外側に似ていた。破れても中身を集め、何もなかったように包み直す役目を、真名は自分で引き受けてきた。
最後に、五本目からこぼれた春雨を一筋だけ残した。妹はそれを見て、封筒を開いた。
「家賃、いくら足りないの」
真名は答えず、まず水を飲んだ。妹は封筒から振込履歴を一枚ずつ出し、合計しようとした。真名はそれも止めた。今夜すぐ返済計画を作らせれば、また自分が手順を決め、妹が従う形になる。
貸す側と借りる側を入れ替えたいわけではない。ただ、破れたものを包んだふりだけはやめたかった。
最後の春巻きは、二人とも食べなかった。きれいに巻けた一本を残すことで、まだ壊れていない姉妹を証明するのではなく、次に会う理由を金以外にも残した。