予約のない窓際
理央は休みの日にも、誰かの休日を見ていた。
友人は海辺のホテル、同期は予約の取れない店、元同僚は新幹線の窓。理央も何か載せなければ、何もしていない人になる気がした。近所のカフェへ行く日さえ、窓際の席が空くまで待ち、飲み物を冷まし、写真を明るく加工した。
給料日前の日曜日、遠出をする余裕はなかった。理央は図書館で借りた本を持って、いつものカフェへ入る。窓際は埋まっており、店員に案内されたのは壁際の小さな席だった。
隣は食器棚で、背景にすると紙ナプキンの箱が写る。理央はカップを何度か動かし、画面の端から箱を追い出そうとした。けれど、どう置いても「特別な休日」には見えない。
タイムラインには、友人の温泉宿の写真が増えていた。浴衣の袖、山の朝霧、豪華な朝食。理央は自分のカフェラテを見下ろす。表面の泡はもう半分ほど消えている。
先月は、友人の旅行写真を見た翌日に、予定になかった展覧会へ出かけた。入場料を気にしながら図録まで買い、入口の写真だけ投稿して、展示は駆け足で見た。帰宅して残高を確認すると、楽しかった記憶より焦りが先に残った。休日を休むためではなく、休日を持っていると知らせるために使っていた。壁際の席には、その証明に向くものが何もなかった。だからこそ、何もしなくてよかった。
写真を撮らず、スマートフォンを鞄の底へ入れた。
壁際の席からは外が見えない。その代わり、食器棚の奥でカップが重なる小さな音が聞こえた。借りた本を開くと、前の利用者が挟んだ返却期限票が一枚落ちる。知らない人も同じページを通ったことが、なぜか可笑しかった。
一時間後、理央は本を三十ページ読んだ。ラテは冷めていたが、写真のためではなく読んでいたからだった。
会計を済ませ、店を出る。投稿していない休日は、あとから誰にも見つけてもらえない。それでも理央の中には、紙をめくった指の感触と、壁際で飲んだ少し苦い泡が残っていた。
駅へ向かう途中、また通知が鳴った。理央は鞄を開けず、そのまま次のページのことを考えた。