予約確認を転送します
「予約確認は、同行者にも転送してください」
日比野莉緒は、ホテルレストランの受付で何度もそう案内していた。日時や服装規定を共有しなければ、待ち合わせは簡単にすれ違う。
自分の二十七歳の誕生日には、窓際の席を一人で予約した。祝ってほしい相手は津守峻平だったが、彼は半年前、「誕生日を二人で過ごしたら恋人みたいだな」と笑った。その一言以来、莉緒は毎年届く彼の短いメッセージだけで十分なふりをしている。
予約前日、姉へ店の場所を知らせようとして確認メールを転送した。
《一人席だけど、料理は楽しみ》
《峻平を誘ったら期待してるってばれそうだから、今年も言わない》
送信先は姉ではなく峻平だった。
莉緒はすぐ《間違えた》と送ったが、返信はない。当日、予約時刻に店へ入ると、窓際には二人用のテーブルが用意されていた。向かいの椅子に峻平が座り、莉緒が好きな白い花を一輪だけ飾っている。毎年メッセージに添えられていたのと同じ、莉緒が好きなフリージアだった。
「席、間違っています」
受付の癖で言うと、峻平は変更済みの予約確認を見せた。人数は二名。同行者欄には《津守峻平》ではなく《峻平》とある。
「転送されたから、確認した」
「一人で過ごす予定だったのに」
「一人席が満席だって伝えた」
店員が椅子を引く。莉緒は向かいへ座ろうとしたが、峻平は自分の隣の椅子を引いた。テーブルの下で差し出された手へ、莉緒は指を重ねる。
食後、峻平は翌年の同じ日をスマホへ登録した。さらに来月の小さなビストロ、再来週の映画も。予定名はすべて《莉緒と》。
「来年まで予約するの?」
「誕生日だけ二人だと、恋人みたいだから」
莉緒の指が止まる。峻平はつないだ手を持ち上げ、もう一度握り直した。
「だから、誕生日以外も二人にする」
告白の代わりに、彼は最初の予定を莉緒へ共有する。莉緒は承諾し、連絡先の名字を消した。
予約確認は同行者にも転送する。
送り先を間違えたメールは、一人分だった未来を二人分へ訂正する確認書になった。