事故歴あり
芹沢道親は毎朝、娘の雛路が学生用身体へ接続するのを見届ける。十七歳型の標準モデル。制服がよく似合い、先天性心疾患の本体では歩けなかった坂道も走れる。中古身体なら月額は新品の三分の一だった。
貸出身体には、過去の事故歴が引き継がれる。救急時の原因判定は、現在の利用者ではなく身体番号の履歴を優先する。それが保険料を抑える一つの規則だった。
体育祭の日、雛路は百メートル走に出た。
道親の端末へ、ゴール直前の映像が届く。彼女は先頭で笑っていた。次の瞬間、身体が横へ崩れた。
救護室へ駆け込むと、雛路は激しく痙攣していた。後頭部を打ち、耳から血が流れている。
「救急車を」
教師が通報端末を押す。
《身体番号S-118》
《過去二年間に自傷行為三件》
《今回も自己誘発事故と判定します》
《公的救急の対象外です》
「転んだんです。みんな見てた」
道親は競技映像を送る。
《映像は利用者の意図を証明しません》
この身体は以前、別の若者三人に貸し出され、そのうち二人が屋上から飛び、一人が車道へ出たらしい。安さの理由を、契約時の小さな事故欄で見た気がした。
私費の搬送を選ぶ。前払い七十万円。
道親の残高は二十一万円だった。
「本体へ戻せませんか」
救護員が雛路の首元を確認する。
「頭部衝撃中の切断は脳損傷を転送する危険があります」
「じゃあ、ここで待てって?」
端末は《自傷者相談窓口》を表示した。
雛路が薄く目を開ける。
「お父さん、私、一番だった?」
「ああ。一番だ」
「じゃあ、転んだの、わざとじゃないって分かるよね」
道親は何度もうなずいた。
しかし判定は変わらない。身体の履歴では、倒れること自体が意図だった。
同級生たちが自分の親へ寄付を頼み、金額が少しずつ集まる。あと十九万円。
その途中で雛路の呼吸が止まった。
教師が蘇生器を当てる。機器は身体番号を読み、ロックされた。
《反復自傷への過剰介入を防止します》
道親は素手で胸を押した。
借り物の肋骨が折れる音がする。
翌日、レンタル会社から請求が届いた。
《事故歴を一件追加しました》
《胸部損傷:利用者家族の故意》
中古身体の評価はさらに下がり、次の家族には、もっと安く貸し出されることになった。