二人ぶんの祈り

処刑前の地下聖堂で、バサンは鎖ごと祭壇へ縫いつけられていた。

胸の内側から、別の口が祈りを真似している。悪霊はもう喉まで来ていた。

祓魔師クユルは、祭壇の周囲に並ぶ空の檻を見た。教会は悪霊を祓うたび、囚人へ移してきたのだ。救われるのは献金した者。移された者は「魔物化した罪人」として翌朝処刑される。

悪霊を宿主から出す方法は一つ。

別の人間が、宿主の生への執着より強い誓いを立てること。悪霊はその誓いへ移り、誓いが果たされるか破られるまで、新しい身体に棲む。

「やるな」とバサンが言った。「俺はもう三人噛んだ」

「生きて謝れ」

大祭司が扉の向こうから命じる。「移し先の囚人を選べ。儀式の時刻だ」

クユルは檻を開けなかった。

バサンの額へ手を置き、誓いを口にする。

「私は、ここから出るすべての者を、二度と教会の檻へ戻さない」

胸の口が笑った。弱い、と囁く。バサン一人の命より、檻の囚人全員を守る誓いの方が重くなければ、悪霊は動かない。

クユルは続けた。

「そのためなら、私の身体を明け渡す」

祭壇の火が黒く反転した。

バサンの背から棘が抜け、歯が人の数へ戻る。同時にクユルの喉へ冷たい指が入り、内側から身体を試すように曲げた。

大祭司が衛兵を入れる。

クユルは振り返った。片方の目は自分の灰色、もう片方は悪霊の赤だった。

「檻を開けろ」

声が二重に響く。衛兵が怯んだ隙に、バサンが祭壇の鎖を引きちぎり、鍵束を奪った。囚人たちが次々に解放される。

大祭司は退魔印を掲げた。

悪霊がクユルの腕を動かし、印ごと彼を壁へ叩きつけた。クユルは止めなかった。誓いを守るには、身体を貸すしかない。

夜明け前、全員が地下道から外へ出た。

バサンは最後にクユルの手を取る。

「もう逃げられた。誓いは果たした。出ていくはずだ」

赤い目が笑った。

だが誓いは「ここから出す」だけではない。「二度と檻へ戻さない」と続いている。教会が彼らを追う限り、終わらない。

クユルは自分の口を押さえた。

「大丈夫だ」と言ったのは、どちらの声だったか分からない。

朝日で地面に伸びた影は一人分だった。

けれど、その影には頭が二つあり、片方はバサンへ、もう片方は追手の来る道へ向いていた。