二十五番の処方箋
二十五番の処方箋だけ、赤いクリップが付いたまま動かなかった。
本庄和寧は、処方内容に疑問があれば必ず確認する薬剤師だ。梶原映里は、患者を待たせる不利益も同じくらい重いと考える。二人は確認電話の回数で、毎月小さく揉めていた。
昼の混雑時、映里が調剤した薬を和寧が監査した。商品名は違うが、同じ成分を含む薬が二つあるように見える。診療科も別だった。
「医院へ確認する」
「お薬手帳には継続ってある」
「手帳が更新されていないかもしれない」
「待合室、もう四十分」
患者は仕事へ戻る時間を何度も見ている。和寧が電話を取ると、映里はトレーを引き寄せた。医師の意図があるなら、余計な確認で不安にさせたくない。
だがトレーの隅に、患者が書いた問診票が見えた。《先週から別の病院でも薬が増えた》。映里は手を止めた。
二人は同時に赤いクリップを処方箋の上へ戻した。交付を保留する印だった。
和寧が医院へ電話し、映里は患者の隣へ椅子を運んだ。「間違いです」とも「大丈夫です」とも言わず、確認に時間が必要だとだけ伝えた。患者が会社へ送る遅刻連絡のため、映里は待ち時間の証明を書いた。
折り返しで、処方の一部が変更になった。医師側にも事情があり、誰か一人の失敗ではなかった。
会計を待つ間、和寧は次回から使える確認カードを患者へ渡し、映里は二つの診療科名を書き込める欄を追加した。患者は急いでカードを鞄へ入れた。二人は引き止めて説明を重ねず、必要な情報だけを一枚に収めた。混雑を理由に確認を省かず、確認を理由に生活を奪いすぎないためだった。
薬を渡したあと、映里は赤いクリップを外した。
「毎回止めていたら、回らない」
「毎回は止めない」
「あなたは止める」
「あなたも止めた」
二人は納得しないまま、次のトレーを取った。
閉店後、確認記録をまとめるとき、和寧は電話内容を書き、映里は患者の待ち時間を書いた。二十五番の一行だけ、二人の字が同じ枠に収まり、赤いクリップだけが空になった。