二本の単三電池

鳴海季和が一日だけ帰宅した時、母は台所のタイマーを叩いていた。

白い丸形で、数字の一部が消えかけている。裏蓋を開けると、単三電池が二本、白い粉を吹いていた。季和が入院してから母は鍋を焦がすことが増えたらしい。忘れっぽくなったのではなく、火にかけたまま病院からの電話を待つからだと、姉は言った。

新しいタイマーを買えばいい。母もそう言った。しかしこのタイマーは、三分なら「3・0・0」、十分なら「1・0・0・0」と押す古い型で、母の指が順番を覚えている。季和は電池だけ替えることにした。

近所のコンビニまで、母がついてこようとした。

「電池くらい一人で買える」

「一人で外に出していいって意味の許可じゃないでしょう」

結局、母は五歩後ろを歩いた。付き添っていないふりをする距離らしい。季和は途中の電柱で休み、店の前では息が整うまで雑誌の表紙を眺めた。

電池売り場には、四本組と八本組しかなかった。必要なのは二本だけだ。余った電池を母がどこへしまうか想像し、季和は四本組を選んだ。レジで店員が「袋は」と聞く。季和は断り、箱を上着のポケットへ入れた。角が肋骨に当たったが、持って帰れる重さだった。

台所へ戻り、古い電池を新聞紙に包む。端子には白い粉が残っていた。綿棒へ少し酢を含ませて拭くと、金属の色が戻った。母が横から手を出しかけるたび、季和は肘でよけた。

新しい電池の向きを確認する。一本目はばねの側へ平らな端、二本目は逆。母はすぐ使えるよう、鍋へ水を張り始めていた。

裏蓋を閉じる前に、余った二本へ油性ペンで日付を書いた。母は日付を見れば、古いほうから使う。冷蔵庫横の引き出し、その一番手前へ置く。

季和はタイマーを三分に合わせ、開始ボタンを押した。表示が一秒ずつ減り、母は湯の沸く鍋を見た。三分は長かった。二人とも何も言わず、数字だけを追った。

残りが零になる。台所に、以前より少し高い電子音が鳴った。母が火を止め、季和はタイマーの停止ボタンを一度押した。