二重底の反省文

百田旭巡査の反省文は、紙一枚にしては厚すぎた。

薬袋絢香監察官は、証拠撮影台の光を横から当てた。百田は警察の人物照会端末を私用で検索し、新聞記者の住所を暴力団へ漏らした疑いを認めている。記者は直後に襲われた。監察は、若い巡査の好奇心と借金が原因だとして懲戒免職を決めようとしていた。

立会いの棚橋宗孝警視は腕を組んだ。

「本人の自筆で、署名もある。何を疑う」

絢香は紙の端を拡大した。二枚の用紙が、薄い接着剤で貼り合わされている。表は「私的な興味で検索した」と整った文字。裏側には、消しきれない筆圧の凹みがあった。

蒸気を当てると糊が緩み、二枚目が現れた。

――棚橋警視の命令で照会。対象は記者。結果を封筒で渡した。

その下には、途中で途切れた署名がある。二枚目を隠し、同じ位置へ書き直させたのだ。

「これは押収時にはなかった」

棚橋の声が変わった。

「君が今、細工した可能性もある」

「接着剤は三週間前に硬化しています。紙にも百田巡査の汗と、あなたの指紋が残っています」

棚橋は撮影台の電源を落とした。暗くなったガラスの上で、反省文だけが非常灯に浮かぶ。

「検索対象は、保護中の情報提供者にもつながっていた。命令系統を公表すれば、照会履歴が法廷へ出る。記者だけでなく、警察へ協力した者の住所が何十件も明らかになるぞ」

「だから百田巡査一人に背負わせる?」

「彼も同意した。家族へ退職金を残すためにな」

絢香は、表の反省文を見た。百田の字は最後の一行だけ震えている。

――組織に迷惑をかけ、申し訳ありません。

誰への謝罪だったのか。表紙の『私的検索』という四文字だけ、百田の筆圧ではなく、下書きをなぞった不自然な線だった。

棚橋が暗闇で言った。

「監察は事実を全部出す場所ではない。被害を最小にする場所だ」

絢香は非常用電源を入れた。撮影台の白い光が戻る。二枚の反省文を並べ、証拠番号をそれぞれに振った。

「では、隠した被害も数えます」

彼女はシャッターを切り、二重底のない透明袋へ両方を封入した。