仕様どおり
《QA-4182 重要度:重大》
十二章の保存データを読み込むと、購入済み装備が一章の状態へ戻る。
再現条件:通信遅延〇・三秒、決済照合と自動保存の重複。
報告者:風祭直哉。
《09:12 状態変更:仕様どおり》
変更者:開発リーダー・鴨志田魁。
「発売を遅らせたいのか」
鴨志田は直哉の再現動画を閉じた。
「品質管理は粗探しをする部署じゃない。百回に一回なら、誰も気づかない」
直哉は同じ場面を百二十七回繰り返した。壊れる瞬間には、画面の時計も映した。報告を支持した同僚は閲覧権限を外された。
《QA-4210 重要度:重大》
有料衣装が消失。再購入すると二重請求。
《QA-4331 重要度:重大》
通信復帰直後、破損データを正常として上書き。
《状態変更:仕様どおり》
《添付動画:削除》
直哉は削除前に、動画の識別値と再現端末を検証台帳へ写していた。数字だけを見れば同じ失敗の繰り返しでも、遊ぶ人にとっては、積み上げた時間が一度ずつ消える。
翌朝、直哉は定例会議から外され、古い端末一台で全章をやり直すよう命じられた。人事評価には《不安を広げ、チームの速度を落とす》。それでも彼は、消された番号を紙へ控えた。
発売判定会議の日、直哉の名札は会議室の外へ置かれた。鴨志田は彼が作った検証表だけを持ち込み、問題がないことを自分が確認したと説明した。
発売判定会議で、鴨志田は役員へ報告した。
「致命的な不具合はゼロです」
最終確認として、役員が市販機と同じ環境で十二章を読み込む。主人公の装備が消え、最初の木剣だけが残った。
「品質管理の見落としです」
鴨志田は直哉を指した。
直哉は三つの番号を読み上げる。
「存在しない報告だ」と鴨志田は言った。
技術役員が監査サーバを開く。削除済みの報告が復元された。三件ではない。二十三件すべてが、受理後数分で鴨志田の管理者アカウントから《仕様どおり》へ変更されている。会議メンバーから直哉を外した履歴も、低評価を書いた時刻も並んだ。
「整理しただけです」
技術役員は発売日を空白へ戻し、鴨志田の《管理者》権限を解除した。
《発売判定:凍結》
《解除条件:風祭直哉による再検証署名》