余ったM4ねじ
久世隆之の部屋に届いた本棚は、板が十二枚、ねじが四十一本あった。説明書には四十本と書かれている。
「余りは不良じゃない」
遠野静馬が言った。
「お前は昔から、余った物を怖がる」
二人は大学のロボコンチームにいた。静馬が設計し、隆之が発表した機体は全国優勝した。表彰後、企業の取材に隆之だけが答え、設計者の名前を出さなかった。隆之はそのまま起業し、静馬はチームを辞めた。七年後、会社を畳んだ隆之が、工具を借りに来たのだった。退去期限は明日で、静馬には『棚を組む間だけ』と伝えていた。
静馬の新居には、まだ家具が少ない。行き先のない隆之の段ボールが廊下を塞いでいた。
二人は本棚を組み始めた。隆之は説明書通り板を並べ、静馬は木目の向きを直す。最初の側板を逆につけ、全部外してやり直した。
「記者会見より下手になったな」
「設計者が黙ってたからだ」
「聞かなかった奴が言うな」
ねじを締める音が止まった。隆之は謝ろうとしたが、言葉は説明書のどこにもなかった。静馬は次の板を渡した。
最後の棚板を固定すると、やはりM4ねじが一本余った。隆之が袋へ戻そうとすると、静馬は古い工具箱を開けた。中には、優勝機の脚部に使った同じ規格のねじが一本、折れたまま残っている。
「決勝前、交換したやつだ」
「取ってたのか」
「捨てる理由がなかった」
新しい一本を工具箱へ入れ、折れた一本を隆之へ渡した。交換なのか、返却なのかは分からなかった。
完成した本棚へ、静馬は自分の技術書を上二段に並べた。下二段は空いたままだ。隆之の段ボールには、会社から持ち帰った部品とノートが詰まっている。
「倉庫を借りるまで置かせてくれ」
「棚は荷重試験が要る」
「何日?」
「壊れるまで」
静馬は下段へ隆之の部品箱を一つ入れ、倒れ止めの金具を壁へ固定した。玄関へ戻ると、靴箱の上に鍵が二本あった。片方には、余ったM4ねじがキーホルダー代わりに通されていた。
隆之はそれを取る前に、本棚のいちばん下へ自分の古い設計ノートを立てた。