余白の四文字

図書館の自動貸出機更新で、文書制作会社の折笠由良は仕様書の体裁を整える仕事を請け負った。内容を変えてはいけない。行間を揃え、見出しを太くし、ページ番号を振るだけだ。

原稿には、特定メーカーの型番の後ろに『同等品可』とあった。由良はその四文字を残したままPDFにした。ところが翌朝、公開版を確認すると、画面には型番だけが表示されていた。

契約課へ問い合わせると、「発注者判断で削除した」と返事が来た。だがPDFを検索すると『同等品可』が見つかる。文字は消されたのではなく、白色に変更されていた。余白に紛れ、画面でも印刷でも見えない。

入札には三社が参加した。二社は同等性能の別製品を提案し、仕様不適合で失格。型番のメーカー系列会社だけが残った。由良は、自分が作った初稿を開いた。変更履歴には、公開前日の二十三時十八分、契約課長のアカウントで文字色を白にした記録がある。同じ時刻、共有フォルダには系列会社名入りの契約書案が作られていた。

「白くしただけで、データ上は残っている。削除ミスだ」

課長はそう説明した。だが、見えない四文字を根拠に他社を失格にはできない。見える仕様だけなら、競争を一社へ絞ったことになる。

落札決裁会議で、由良は公開PDFをプロジェクターへ映し、全選択した。青い反転表示の中に『同等品可』が浮いた。委員たちが前のめりになる。

「この四文字は、あるのですか。ないのですか」

由良が尋ねると、課長は口を閉じた。館長は契約書へ押すはずだった印鑑を持ち上げ、画面の白い余白を見た。

失格になった会社からは、公開翌日に『同等品でもよいか』という質問が届いていた。契約課は『仕様書に記載がないため不可』と回答している。由良はその回答と、白いまま残った四文字を並べた。課長は文字を削除したつもりだったと言いながら、業者には文字が存在しない前提で答えている。単なる表示ミスではなく、競争相手を外すために利用されたことが、二つの文書の間から見えた。

たった四文字分の空白が、数千万円の決裁を止めた。