修理印の帰還地点

雨月カズサの胸を、団長の短剣が貫いた。

《修理帰還》

死亡したプレイヤーは、最後に自分が修理した装備の現在地で復活します。

「職人は戦利品を知りすぎた」

団長は鍛冶師のカズサを炉へ突き落とし、ギルド金庫の扉を閉めた。レイドで得た神鉱石を独占し、現実通貨で売るつもりなのだ。

視界が暗転する。復活先候補が一つだけ表示された。

《黒狼剣》

《現在地:ギルド金庫・所有者ギルドマスター》

昨日、団長が「決戦前に」と持ち込んだ剣を、カズサは徹夜で直した。修理印は所有者が変わっても消えない。

光が戻る。

カズサは金庫の内側に立っていた。目の前には神鉱石の山と、外部取引用の転送陣。団長は扉の外で、彼女の死亡を宣言している。

「魔物に殺された。遺品はギルドで管理する」

カズサは黒狼剣を台から取った。団長の装備であっても、修理者の手には整備画面が開く。刃の内側へ仕込まれた取引記録が見えた。

《売却予約:神鉱石四十二個》

《受取口座:団長個人》

扉を壊す力はない。カズサは金庫内の錆びた武器を片端から修理した。外で倒れた仲間が復活するとき、最後に直した装備の場所――金庫内へ次々現れる。

団長が扉を開けたとき、死んだはずの者たちが鉱石を囲んでいた。

「俺の剣を盗んだな!」

カズサは黒狼剣を返す。刃の修理印が青く光り、全員の画面へ取引記録を投影した。

《不正売却を中止》

《修理帰還地点から二十三名が復活》

復活した仲間の一人は、金庫内に自分の折れた弓があることへ気づいた。団長は遺品として売るため、死亡者の装備まで集めていた。

カズサが直した物は、戦利品一覧ではなく帰還地点の一覧へ変わる。炉で叩いた一打ごとに、「ここへ戻ってこい」という印が残っていたのだ。

彼女は黒狼剣の取引記録を公開した後、刃を折らなかった。裏切り者が使った武器でも、武器自体に罪はない。

ただし次に修理を頼まれたときは、持ち主ではなく使い道を先に聞くと決めた。

《所有者表示を訂正――装備を持つ者だけでなく、壊れた物を再び使えるようにした者も、その履歴から消せません》