全員分の痛みを領主へ請求する
鉱山領の感覚通訳ユーノスは、役に立たない慰問係と呼ばれていた。
負傷者の痛みを数字や言葉へ直して医師へ伝えるだけ。領主は治療費を惜しみ、痛覚を消す首輪を鉱夫へ配った。
【固有スキル《尺度翻訳》:受け手に直接伝わらない感覚を、その受け手が価値を理解できる尺度へ置き換える】
痛みを感じなくなった鉱夫は、骨が折れても働かされた。坑道の奥では、首輪が吸い取った苦痛を燃料に魔鉱石を精製している。
ユーノスが抗議すると、領主は金貨を指で弾いた。
「痛みには値札がない。だから支払う必要もない」
その日、魔鉱炉が暴走した。吸い込まれた苦痛が限界を超え、首輪が全員の命まで燃料に変え始める。鉱夫たちは苦しさすら分からないまま倒れた。
領主は金庫を抱え、非常門を自分だけ閉めようとする。
ユーノスは炉の契約印へ触れ、受け手を領主に指定した。
彼が価値を理解できる尺度は、一つしかない。
千人分の痛みが、金額へ翻訳された。
骨折一件、金貨百枚。
潰れた肺、五百枚。
失った指、終身賃金。
死にかけた一呼吸ごとに、王国金貨が加算される。
炉は燃料ではなく未払い債務として苦痛を認識した。領主の金庫、宝石、屋敷、爵位担保が光になって首輪へ流れ込み、治癒魔力へ換算される。折れた骨が戻り、肺が息を取り戻した。
「やめろ! 私の財産だ!」
「痛みに値札がないと困るそうなので、あなた向けに訳しました」
残高がゼロになっても債務は消えない。最後に領主自身の生涯労働権が差し押さえられ、非常門の所有者が鉱夫組合へ変わった。
治癒を終えた首輪には、それぞれ未払い額と所有権移転の証明が刻まれた。鉱夫たちは初めて自分の傷を「我慢が足りない」ではなく、支払われるべき損害として見る。
領主の絹服は差し押さえの光に消え、代わりに鉱山労働者の番号札が首へ下がった。千人分の債務を返すまで、彼には一日ごとの賃金と休憩時間が厳密に記録される。痛みを価値にしなかった男ほど、その数字から逃げられない。
門が開き、千人が地上の光へ歩き出す。その先頭でユーノスの首輪だけが職業札へ変わった。
【職業《感覚通訳》が上位職《苦痛換算官》へ書き換わりました】