全滅ログのあとも招待欄は消えない

VRMMO《エルダー・クラウン》で、補助術師リノアは百人レイドを全滅させた。

最終局面で「魔法反射」を味方全員へ付与した直後、回復魔法まで跳ね返り、主力が崩れたのだ。攻略掲示板には彼女の名前が並び、所属ギルドは即座に除名した。

翌晩、装備を売るためログインすると、廃都の広場に三人のプレイヤーがいた。

盾職ギルド《城塞》のバスティオンは、最高級の大盾を取引欄へ置いた。

『加入するなら、これを預ける。反射の発動判断も君に任せる』

魔導士集団《白夜》の代表カグラは、八人パーティーの隣枠を空けたまま招待を送った。

『攻略席、ずっと一つ空いてる。見学からでもいいよ』

生産旅団《星針》の団長トワは、遠征用の転移門を開き、帰還地点をリノアの個人工房に設定した。

『返事が出るまで門は閉じない。疲れたら、ここから帰れる』

三つの勧誘通知が視界に重なる。

全滅後の罵倒ログに慣れた目には、誰も期限や戦力値を条件に書いていないことのほうが、伝説装備より眩しかった。

そのとき、広場に隠しボスが出現した。逃げ遅れた初心者たちを守るため、リノアは反射を発動する。だがボスの炎は反射せず、逆に大盾の耐久値が一気に減った。

また自分の判断で全滅させる。

『ごめんなさい。招待、全部取り消してください』

リノアはログアウトボタンへ指を伸ばした。

『私がいると、皆の大事なものを壊すから』

大盾の耐久値がゼロになり、砕ける音がした。

けれどバスティオンは消えず、素手で初心者の前に立った。カグラは空けていたパーティー枠へリノアを強制加入ではなく「承認待ち」のまま置き、弱点解析を共有する。トワは転移門を避難用に広げた。

『反射しないんじゃない』とカグラ。

『炎の中身が回復属性だ』とトワ。

バスティオンが笑う。

『前回も同じだ。運営が属性表示を逆にしていた。君はログを残したから、今わかった』

三人は壊れた装備の補償も求めず、ボスを倒したあとも広場に残った。

取引欄には新しい盾、パーティーには空席、転移門の先には明かりのついた工房。

リノアはどの加入ボタンもまだ押さない。それでも三つの招待欄は、夜明けのメンテナンスまで一度も消えなかった。