割れた封蝋は一つだけ

王立施療院へ送った治癒薬が、三便続けて二十本ずつ消えた。

薬は工房で百本を箱へ入れ、二つの中継所を経て王都へ届く。工房、御者、中継所、施療院の全員が互いを盗人と呼び、最後に箱を閉じた日野原榛名が弁償を命じられた。

榛名は四便目の箱へ、番号を刻んだ細い金具を通し、その上から封蝋を落とした。開けば金具が折れ、同じ番号では閉じ直せない。出発時の番号は《二七一》。受け渡すたび、係にその数字を声へ出させた。

第一中継所。《二七一、封蝋異常なし》

第二中継所へ着いたときも、受取人は《二七一》を確認した。だが王都門で箱を下ろすと、封蝋の色は同じでも、金具には《三一八》とあった。

榛名は箱を開けた。治癒薬は八十本。

第二中継所と王都門の間で、箱を扱ったのは護送隊だけだった。隊長の予備鞍を調べると、布に包まれた二十本と、折れた《二七一》の金具が出てきた。

「蝋なら溶かして戻せると思った」

隊長の膝が石床へ落ちる。

受渡帳を逆にたどると、最初の二便も第二中継所までは工房の封印番号と一致し、王都門だけ別番号になっていた。これまで全員を疑うしかなかった輸送路が、番号一つで十里のうち最後の二里へ絞られた。無実の御者七人は、その日のうちに拘束を解かれた。

五便目には、各所の係が封蝋の色ではなく金具番号を先に読むようになった。箱を開けずに三秒で確認でき、百本の数量検査を毎回やり直す必要もない。到着時刻は前便より一刻早く、薬は百本すべて施療院の棚へ並んだ。

護送隊長が偽番号を用意しても、使用済み番号は帳面で消されている。同じ札を二度使えないことが、鍵より強い見張りになった。

三便分の薬も隊舎から見つかり、榛名への弁償命令はその場で破られた。施療院長は新しい箱百個を並べ、一から百までの金具番号を書いた注文書を置く。

「薬だけではない。血清、麻酔薬、王家の秘薬も、この封印で運ぶ」

院長は最後の欄へ榛名の名を書き入れた。

「輸送封印官として正式採用する。次の箱を閉じられるのは、君だけだ」