勇者を殺した水曜日

銅城叶芽と彼の交換日記は、小説だった。

一日一頁ずつ続きを書く。主人公は、剣を持たない勇者。叶芽が砂漠へ送り、彼が空飛ぶ図書館へ連れ込み、叶芽が竜を仲間にした。

物語の中なら、二人は何でも言えた。

勇者が怒れば、叶芽が怒っている日。

竜が黙れば、彼が機嫌を損ねた日。

仲直りは、だいたい敵を一体倒すことで済んだ。

水曜日、日記が返ってきた。

勇者は死んでいた。

『魔王の矢が胸を貫いた。勇者は最後に、もう旅は終わりだと言った。』

叶芽は彼の席を見た。

昼休みなのに、鞄がない。担任から、しばらく部活を休むとだけ聞いていた。朝、廊下ですれ違っても目をそらされた。

物語を終わらせるつもりだ。

叶芽は腹が立った。理由を説明せず、勇者だけを殺すなんて卑怯だ。

次の頁に書いた。

『勇者は死んだふりをしていた。矢は胸ポケットの交換日記に刺さり、紙が命を守った。』

我ながらひどい展開だった。

翌日、返事はなかった。

金曜日も日記は机の中に残っていた。

叶芽は物語を進めた。

『竜は勇者を背負い、町へ戻った。』

『図書館は着陸場所を探した。』

『仲間たちは、事情を話すまで勇者を休ませないことにした。』

月曜日、彼が登校した。

授業が終わっても、叶芽は話しかけなかった。日記だけを机へ置いた。

放課後、返ってきた頁には、久しぶりの字があった。

『勇者は起きた。家の都合で遠い町へ行くことになった。仲間に言えば引き止められると思い、先に物語を終わらせようとした。』

叶芽は読み返した。

転校ではない。祖母の家から通うため、朝が早くなり、部活をやめるだけだと次の行にあった。それでも、毎日一緒だった放課後は終わる。

叶芽は最後の授業が終わるのを待ち、日記を持って彼の席へ行った。

「勝手に勇者を殺さないで」

「生き返らせるほうも勝手だろ」

「物語なんだから、都合よくていい」

「現実は?」

「現実も、終わり方くらい相談して」

彼はしばらく黙り、鉛筆を取った。

二人で一行ずつ書いた。

『勇者は放課後の旅を終えた。』

『朝の旅を始めた。』

『竜は眠かったが、たまに駅まで見送りに行った。』

『図書館は休日だけ飛んだ。』

最後に叶芽が書いた。

『物語は、書く人が二人いる限り終わらない。』

彼は横へ、小さく付け足した。

『ただし勇者を勝手に蘇生する編集者がいる。』

叶芽はその一文を赤で囲んだ。

水曜日に死んだ勇者は、次の月曜日から朝焼けの中を歩き始めた。