十三番席の避難バス
山火事の煙が校庭を覆い、黄色いバスが迎えに来た。
消防団の男は「風向きが変わる前に」と叫び、放課後に残っていた生徒十二人と私を乗せた。私は顧問として最後に十三番席へ座った。
助けが間に合ったのだと思った。
乗車名簿を確認した消防団の男は、生徒の名に丸を付け、私の欄だけ赤い線で消した。「引率者は別票です」と言われ、深く考えなかった。
窓には外から黒いフィルムが貼られ、車内から景色がほとんど見えない。煙を遮るためだと運転手は言った。
非常口の赤いレバーには針金が巻かれていた。走行中の誤操作防止らしい。
バスは激しく曲がりながら山を下った。生徒たちは不安そうに、避難所はまだかと尋ねる。運転手は道路が封鎖されていると繰り返した。
一番前の生徒が、車内灯の下で運転手の地図を見た。避難経路ではなく採石場の構内図だと言いかけると、男は地図を奪い、煙を吸うから席を立つなと怒鳴った。
私はフィルムの端を爪で剥がした。外には見覚えのある無人の給油所があった。十分前にも同じ壊れた看板を見た。
「同じ道を回っていませんか」
消防団の男は私の肩へ手を置いた。
「煙で方向感覚が狂っています」
その袖口から、赤い塗料が覗いた。今朝、理科準備室の裏で見つけた灯油缶にも、同じ色が付いていた。私は不審に思い、写真を教育委員会へ送ると校長に伝えていた。
バスが止まった。男は生徒だけを前方へ集める。
「ここから小型車に乗り換える」
「私も行きます」
「先生は怪我の確認がある」
生徒たちが降ろされると、ドアが閉まった。フィルムの隙間から、彼らが本物の消防車へ引き渡されるのが見えた。
運転手はバスを再び走らせ、山腹の採石場へ入った。トンネルの奥で鉄柵が閉まる。
男が消防団の腕章を剥がした。
「火は消える。写真も消す。先生は、救助中に行方不明だ」
十三番席のベルトだけ、外すボタンが最初からなかった。
このバスが避難させたのは十二人。
残る一人を、火事のせいにして閉じ込めるために。