十二分の昼休み
十三階の昼休みは、十二分間しかない。
十二時四十八分に業務用エレベーターへ乗り、扉が開いたら好きな席で食べる。十二時五十九分のベルが鳴ったら箸を置き、一時までに退出する。十三分目まで椅子に座っていた者は、元の職場から自分の席を失う。
規則は社員食堂の入口に、アレルギー表示と並んで掲示されている。
霧生は毎日十三階で昼を食べた。地上の食堂は混み、人の会話へ入るタイミングが分からない。十三階には長机が一本と椅子が十三脚あるだけで、いつも空いていた。
四月から、向かいに女が座るようになった。
彼女は十二分で食べきれるよう、弁当を小さく切ってきた。卵焼きは三切れ、唐揚げは二個。会話を始めると時間が足りないので、二人は献立を見せ合うだけだった。霧生が梅干しを指すと、彼女は顔をしかめる。彼女がタコ形のウインナーを立てると、霧生は箸で敬礼させた。
十二時五十九分、ベル。二人は必ず同時に立った。
六月の終わり、彼女の弁当は白いご飯だけだった。机の下に段ボール箱があり、社員証の紐が覗いている。霧生は異動かと口の形で尋ねた。彼女は首を振り、空中へ指で「席」と書いた。
ベルが鳴った。
霧生は立った。彼女は座ったままだった。
「十三分目ですよ」
十三階では私語を禁じられていない。ただ、霧生が声を出したのは初めてだった。
彼女は小さく笑った。
「席をなくせば、やっと立てるから」
一時になり、霧生だけがエレベーターへ押し戻された。翌朝、彼女の部署へ行くと、机が一つ消えていた。床には四角い日焼け跡だけがあり、誰に尋ねても「最初から七席です」と言う。
昼、十三階には彼女がいた。椅子はなかったので、床に座っている。規則は椅子に座る者にだけ適用されるらしい。
霧生も床へ座った。十二分間、二人は初めてゆっくり話した。彼女は会社を辞めたこと、帰る場所がまだ決まっていないことを言った。霧生は自分の部屋に椅子が二脚あることだけ伝えた。
ベルが鳴った。
二人が立つと、長机の下に小さな弁当箱が残っていた。蓋を開けると、白いご飯の中央に卵焼きが一つある。
卵焼きの断面には二つの黄身があり、その間に、十三本の脚を持つ豆粒ほどの椅子が挟まっていた。