十二枚の木札
市場町の浴場では、毎晩けんかが起きた。
大鍋一つの狭い湯へ、閉店した商人、荷運び人、子連れの家族が同時に押し寄せる。金持ちは番人へ小銭を握らせて先に入り、遅れた者は冷めた残り湯しか使えなかった。
監督役サビーナは、番人を罰する代わりに、十二枚の木札を作った。
一枚が半刻。朝にその日の札を一人一枚だけ取る。家族札は三人まで同じ枠に入り、追加料金なし。取り置き、転売、身分による優先は禁止。急病人用に十三枚目を番人ではなく診療所へ預ける。
料金は誰でも銅貨一枚。混雑する夜も値上げしない。その代わり、使わなかった札は開始前に返せば全額戻る。無断で空けた者だけ、翌日は最後の枠になる。
「商人は時間が銭だ。荷運びと同じ扱いか」
有力商人の抗議に、サビーナは十二枚を机へ並べた。
「銭で買えるのは一枠までです。二枠欲しいなら、翌日もう一度並んでください」
規則は短く、例外は診療所の一枚だけ。誰が何番を取ったか、札掛けを見れば分かる。番人への賄賂は意味を失った。
すると利用者たちは、自分たちで枠を工夫し始めた。子連れ同士は家族札を譲り合い、荷運び人は閉場前の静かな枠をまとめて選んだ。商人たちは朝一番に並ぶ代わり、交代で仲間の店を開けた。誰も命令されていない。公平な不便なら、互いに助ける余地が生まれたのだ。
最初の夜、十二番札の男が湯から上がると、時計は閉場ぴったりを示した。湯はまだ温かく、床にも湯桶が残っている。
サビーナが木札を壁へ戻す。
一から十二まで、欠けも裏返りもない札が、同じ高さで揺れた。
番人は、札の裏にこっそり金持ちの印をつけていた過去を自分から告白した。サビーナは解雇せず、今後は札を毎朝利用者二人と一緒に数えるよう命じたのではなく、規則へ加えた。監視役はくじで選ばれ、番人自身も確認される。翌日、彼は誰より大きな声で一番から十二番まで読み上げた。公平さは善人を待つのではなく、悪さをしても得にならない形で守られた。
翌朝の列には、以前なら賄賂を渡した商人も、同じ場所から黙って並んでいた。