十二歳の徴兵札
国境戦が終わって半年もたつのに、マグダーン・ルッツ子爵は村の少年たちを広場へ並ばせた。
「領主軍の補充だ。長男も一人息子も関係ない。剣を持てる腕があれば連れていく」
列の先頭にいたのは十二歳の少年だった。母親が抱きしめると、兵士が引き離す。退役軍曹イーヴォ・タレンが間へ入った。
「王国法では十六歳未満の徴兵は禁止です。終戦後の私兵補充も認められていません」
「老兵が私に法を教えるな」
子爵は少年の徴兵札を奪い、年齢欄の十二を刃先で削った。上から十六と書き、徴募官へ押しつける。
「こうすれば十六だ。家族が騒げば税を倍にしろ」
イーヴォは無言で、新しい徴兵命令簿を差し出した。
「全員分を領主命令として承認なさるのですね」
「もちろんだ。私の兵だ」
マグダーンは三十人分の名簿へ一括署名し、軍印を押した。少年の母親を見下ろし、〈年齢確認済み〉の欄にも印を重ねる。
イーヴォは少年の札を、広場のかがり火へかざした。
王立徴兵札には出生台帳と結ばれた熱文字がある。表の数字を削っても、火に当てれば本当の年齢が浮く。十二、十三、十四。並べられた札の半数以上から、十六未満の数字が赤く現れた。
「そんな仕掛けは知らん!」
「知っていると署名されています」
背後から軍法官の声がした。名簿の末尾には〈王国徴募規程を確認し、全対象者の年齢を照合した〉という定型文がある。マグダーンは読まずに印を押していた。
さらに軍法官は、終戦布告の日付が入った王令を示した。子爵領へ追加徴兵の許可は一度も出ていない。連れていかれた少年たちは、子爵家の私設鉱山で働かされる予定だったことも、徴募官の持つ配置表から明らかになった。その配置表の承認印も同じだった。
兵士たちは少年たちの縄を解いた。先頭の少年は母親の腕へ戻り、削られた札を自分で二つに折る。
軍法官が鋼色の命令書を開いた。
「マグダーン・ルッツ。未成年者の違法徴募、公文書改竄および強制労働目的の拘束命令により、王立軍法会議は貴殿の逮捕を命じる」