受け取った者が裏切り者

伏見征は、赤い役職札を八十島要へ投げた。

要は反射的に受け止める。札の表には〈裏切り者〉。海老名千聖が息を呑み、残り五秒の時計が赤く点滅した。

征はすでに要へ投票している。

規則は一行だった。

〈集計時、赤い役職札を所持する者を裏切り者とし、その者へ投票していた者を解放する〉

開始時、札は征の封筒に入っていた。要はそれを見抜いたらしく、八分間ずっと征を追及した。

「お前が裏切り者だ。千聖、票を合わせろ」

千聖は迷いながら征へ投票した。要も同じ。二票を受けた征は、追い詰められた顔を演じつつ、規則の時制だけを見ていた。

裏切り者は、開始時の所持者ではない。集計時の所持者だ。札を渡してはいけないとも、受け取った札を拒否できるとも書かれていない。

残り一秒。

要が札を床へ捨てようとする。だが赤い紙は、掌の汗に反応して粘着膜を広げていた。主催者が、最初の所持者による廃棄を防ぐために施した仕掛けだ。

その仕掛けが、受取人を逃がさない。

ゼロ。

〈赤札所持者、八十島要〉

〈伏見征の投票先、八十島要〉

〈一致〉

征の首輪が外れた。

「投げつけただけだ! 俺は受け取ると同意していない!」

要の叫びに、判定機は答えない。規則が見るのは同意ではなく、所持の事実だけだ。

『役職札は配布された者に帰属します』

「帰属じゃなく所持と書いてある」と征は言った。「所有者なら僕のままだ。でも今、持っているのは彼」

千聖が自分の誤投票を悔やみながら問う。

「最初から要へ投票したのは、投げれば受け取ると分かってたから?」

「八分間、彼は僕の手から札を奪おうとしていた。欲しがっていた物を投げられたら、人は考える前につかむ」

出口が開く。

征は要の掌に貼りついた赤札を見た。

「裏切り者という役は、性格じゃない。このゲームでは、ただの荷物だったんだ」

主催者が札の粘着を遠隔解除した時には、集計はもう終わっていた。