古いアイコンを替える

理央奈が実家で鍋を囲んでいると、母が家族グループのアイコンを見せた。十五年前の家族写真だ。中学生の理央奈は制服姿で、父の手を肩に置かれ、口だけで笑っている。

「この写真、ずっと変えないでね」と母が言った。「家族が一番まとまってたころだから」

父は聞こえないふりで白菜を取った。弟は写真の自分を拡大し、「髪、変」と笑う。

理央奈は、その写真が撮られた日のことを説明しなかった。家族史を語れば、母は記憶違いだと言い、父は昔のことだと言う。代わりに、スマートフォンを開いた。

「アイコン、変えるね」

「どうして?」

「私はこの写真を、家族の看板にされたくない」

母の箸が止まる。「嫌な思い出にするなんて」

「お母さんにとって良い写真でも、私には違う。それだけ」

理央奈は候補画像から、白い封筒の写真を選んだ。家族グループは連絡用。封筒なら、仲良しの証明も、昔の笑顔も要求しない。

変更通知が流れる。

グループの画像が変更されました。

母は「冷たい」と言った。父はしばらく画面を見たあと、自分のプロフィール画像も、理央奈が幼いころの写真から釣った魚の写真へ替えた。

「それでいいの?」と母が父に聞く。

「本人が嫌なら、使わない方がいいだろ」

大きな謝罪ではなかった。父は鍋の灰汁を取りながら言っただけだ。理央奈も、十五年前のことを許したわけではない。

食事のあと、母が古い写真を削除しようとしたので、理央奈は止めた。

「消さなくていいよ。お母さんの端末に持ってるのは自由。みんなの入口に置かないでほしいだけ」

母は納得しない顔で、それでも削除ボタンから指を離した。

帰りの電車で家族グループを開くと、白い封筒のアイコンの下に、母から「次は何鍋がいい?」と届いていた。四角い白の中には誰の顔もなく、誰か一人が家族らしさを演じる必要もない。理央奈はその空白を、冷たいとは思わなかった。

理央奈は「豆乳」とだけ返した。昔の笑顔を貼り直さなくても、次の食事は決められた。