右耳の告白

双子ユニット〈SILK〉の玻璃坂絹が急死してから、妹の紗は一度もステージに立っていなかった。姉妹喧嘩の末に絹を追い詰めた、と週刊誌に書かれたからだ。

四十九日、事務所主催の記者会見で、絹が予約投稿した最後のデュエットが公開された。紗は欠席するつもりだったが、公開設定に〈右側の席を空けないで〉という姉のメモを見つけ、会場へ来た。

再生画面には、左右に同じ顔が並ぶ。

イントロで絹が囁いた。

「右だけで聴いて」

紗は右のイヤホンだけを残した。左チャンネルには、二人が最後に録った明るいポップスが流れている。だが右には伴奏がなく、絹の乾いた呼吸と、楽屋の空調音だけが入っていた。

二人はステージで、絹が左、紗が右と決めていた。どれほど衣装を似せても、立ち位置だけは変えなかった。

「右だけで聴いて。あの子は悪くない」

絹の声が震える。

プロデューサーの暮林岳は、記者席で顔をしかめた。彼は絹の死後、紗が送ったという罵倒メッセージを公開し、悲劇の原因を妹に押しつけた。紗には送った覚えがない。だが端末は事務所が回収し、確かめる術もなかった。

サビで左右の音が交差する。左では二人が笑って歌い、右では絹が誰かと話している。

――眠れないなら、これを飲め。

――何錠?

――あとで編集する。気にするな。

暮林の声だった。

右チャンネルの絹が、わざと大きく尋ねる。

――二錠入れたの?

「一錠だ!」

暮林が立ち上がって叫んだ。

会場が静まる。左側のスピーカーしか鳴っていない記者席には、その質問は聞こえていなかった。右チャンネルは、絹が指定した一台のモニターと、配信視聴者のイヤホンにしか送られていない。

暮林は自分で、未公開音源を事前に聞き、薬の量まで知っていたと明かした。

曲の最後、絹がもう一度言う。

「右だけで聴いて」

紗は空いた姉の左側ではなく、いつもの右側へ立った。

それは音の聴き方ではない。最後まで正しかった妹を、姉が世界へ指し示す立ち位置だった。